■1980年代の ”涙の女王”ナ・ヨンヒ

 イ・ミスクが“陽キャ”なら、役柄的に完全に“陰キャ”だったのがナ・ヨンヒだ。外貨稼ぎのための公娼制度があった時代、彼女は映画デビュー作『暗闇の子供たち』(1981年)をはじめ、『娼婦物語 激愛』(1983年)、『ソウル・コンパニオン 肉体の虜』(1988年)など多くの映画で娼婦を演じた。まさに我が国の苦難の時代を体現してきた女優である。

 このうち、『娼婦物語 激愛』は、日本でもレンタルビデオとして流通していたので観たことがある人もいるだろう。漁師相手の娼婦になり島々を転々とするウンジュ(ナ・ヨンヒ)と、それをどこまでも追うドゥジン(ハ・ジェヨン)の悲恋物語だ。終盤、干潟で二人が泥まみれになるシーンは、韓国映画史に残る悲しくも美しい名場面だ。ドゥジン役の俳優ハ・ジェヨンは、韓流黎明期のチェ・ジウ主演ドラマ『天国の階段』で、パク・シネが子供時代を演じたチョンソの父役の人だ。

 1980年代韓国の光と影を演じた二大女優だが、『涙の女王』では、イ・ミスクが影のある愛人を演じ、ナ・ヨンヒが女帝然とした正妻を演じているところがおもしろい。

 ちなみに、ナ・ヨンヒはキム・スヒョン主演『星から来たあなた』でチョン・ジヒョン演じるヒロインの母役を演じるなど、キム・スヒョンとは共演経験がある。

『娼婦物語 激愛』が撮影された黒山島にはかつての娼館の建物が残っていた(2012年撮影)
『娼婦物語 激愛』の舞台、黒山島の夜

※ 本記事で紹介した映画『桑の葉』と『娼婦物語 激愛』は韓国映像資料院のYouTubeで視聴できる。