Netflixで配信中のドラマ『涙の女王』は、デパートを経営する財閥の娘ヘイン(キム・ジウォン/『私の解放日誌』)と、地方のスーパーマーケットの息子ヒョヌ(キム・スヒョン/『サイコだけど大丈夫』)の格差婚ラブストーリーだ。 

 キム・スヒョンをはじめとする豪華キャストが話題になっているが、なかでもクイーンズ財閥の一族に扮した俳優の布陣は、韓国の50代以上の視聴者をアッと言わせている。

 今回は、財閥会長(キム・ガプス)の愛人モ・スリに扮したイ・ミスクと、財閥副会長(チョン・ジニョン)の妻キム・ソンファに扮したナ・ヨンヒ、二人のベテラン女優に注目してみよう。奇しくも、二人は1960年代初頭、同じ忠清北道生まれ。1980年代から映画やドラマで活動しているが、話題の最新ドラマにそろってキャスティングされているのを見て、驚きと感動を禁じ得なかった。

ユン・ヨジョンチェ・ジウなど名だたる女優に囲まれても霞まない、イ・ミスクの存在感 

 ソウル五輪開催を控えた1980年代後半。日本のレンタルビデオ店で韓国映画が流通し始めた頃、イ・ミスクを認識した日本の人もいるはず。彼女が出演した当時の話題作が『鯨とり コレサニャン』(1984年)と『桑の葉』(1985年)だ。

『鯨とり』でイ・ミスクは路上生活者の親分(アン・ソンギ)と家出大学生(キム・スチョル)とともに故郷を目指してさすらう失語症の娼婦を演じた。そして、日本植民地時代の農村を舞台とした映画『桑の葉』では、放浪癖のある夫の留守中、村の男たちに言い寄られるがまま金品と引き換えに親密になり、村の女たちに総スカンを食う鼻つまみ者を演じている。ともに汚れ役なのだが、生来の“陽キャ”が強く、後味がよいのが魅力だ。

韓国青春映画の金字塔『鯨とり コレサニャン』。ジャケ画像の左下が当時20代半ばのイ・ミスク

『Vogue』誌の撮影スタジオを舞台としたセミドキュメンタリー映画『女優たち』(2009年)でも、その“陽キャ”は健在。『ミナリ』のユン・ヨジョン、『善徳女王』のコ・ヒョンジョン、『冬のソナタ』のチェ・ジウ、ホン・サンス作品のキム・ミニ、『その恋、断固お断りします』のキム・オクピンに囲まれても埋もれなかった。冗談を言って高らかに笑ったり、後輩チェ・ジウを説教したりと見せ場は多く、年齢(当時50歳)を超えた輝きを放っていた。

 映画だけでなく数多くのドラマで脇役として活躍しているイ・ミスクだが、『涙の女王』でも会長愛人役でその存在感を発揮しそうだ。