■市井の人々とのふれあいこそ旅の楽しみ
『ひと夏のファンタジア』の舞台は手垢のついた東京や大阪ではなく、奈良県の五条市というまったくイメージのわかない街だった。カメラはフィクションともノンフィクションともつかない視線で、五條市の一般市民やミジョンを捉える。
観始めてしばらくは捉えどころのない映画だなと思ったが、第1章の「喫茶 樹里」のお姉さんと、カメラを向けられて高揚気味の男性客、そして、篠原のおばあちゃんが自分語りをし出したあたりから、筆者はミジョンに感情移入していった。
「(故郷は)どっこも好きも嫌いもないけど、生まれたとこやからしかたない。友達はみんな外に出て行ったけど、私は何の因果かここに住まわせてもろてるから、ここがいちばん最高です。みんなが健康で、なんにも悪いことせんようにしてほしいです」(篠原のおばあちゃん)
私たちは結局、こんな言葉が聞きたくて旅をしているのではないだろうか。旅の喜びとは、どこの国に行っても人々の暮らしは同じだということが確認できたり、市井の人々の喜怒哀楽にふれられたりすることだ。
この映画を観た韓国人の多くが、五條市のような日本の名もなき田舎町を旅してみたくなったはずだ。特に韓国人は、第2章に出てくる柿農家の友助(岩瀬亮)のような純朴だが率直な青年と出逢いたくなっただろう。
私の日本の友人知人の多くが、ホン・サンス監督『カンウォンドのチカラ』の主人公(オ・ユノン)や『川沿いのホテル』の主人公(キム・ミニ)、チャン・リュル監督『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』のヒロイン(シン・ミナ)のような人に会いたくて韓国の街を歩いたように。
●公開情報
特集上映「映画監督チャン・ゴンジェ 時の記憶と物語の狭間で」
3月7日(金)東京・ユーロスペースほか全国順次公開
上映作品:『十八才』『眠れぬ夜』『ひと夏のファンタジア』『5時から7時までのジュヒ』
配給:A PEOPLE CINEMA/chocolat studio