ポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』が、韓国で上映されている(日本公開は3月28日)。監督の前作は、言わずと知れたアカデミー賞受賞作『パラサイト 半地下の家族』だが、その舞台地であり、邦題にもなっている「半地下」が、一昨年の建築法改定により、新築できなくなった。
■映画『パラサイト 半地下の家族』の舞台、ソウルに集中する「半地下」住宅
現在、韓国には約30万戸の半地下住宅が存在し、その90%以上が首都圏に集中している。今から二十数年前のことだが、私も半地下で暮らした経験がある。友人の知り合いが、江南エリアでヴィラ(3〜4階建ての低層マンション)の賃貸経営をしており、保証金なしで半地下の部屋を貸してくれたのだ。
保証金とは、家賃を踏み倒された時などの補てん用に、家主があらかじめ借主から預かり受けておくお金のこと。韓国で家を借りる際、必ずついてまわるもので、格安物件だと500万ウォン(約51万円)程度、高級住宅地になると、数十億ウォン(約数億円)にのぼることもある。
退居時には基本的に全額返金されるが、まれにトラブルになるケースもあるため、保証金なしで借りられると聞いて即決した。家賃は管理費込みで55万ウォン(当時のレートで約5万5000円)。ワンルームだったが50平米あり、一人暮らしの学生には十分な広さだった。
■韓国で半地下住宅が生まれた背景
韓国に「半地下」という独特な居住空間が存在する背景には、朝鮮半島情勢が深く関わっている。北朝鮮との関係が緊迫していた70年代、韓国では建築法が改定され「人口20万人以上の都市で、延べ面積200㎡の建築物を新たに建てる際は、必ず地下室を作ること」と、取り決められた。有事の際に地下を防空壕として使用するためだ。
時を同じくして、都市化が進んでいたソウルでは、人口急増による住宅不足が深刻化していた。そこで、商売上手な家主たちが、地下室を安物件として出したのが、そのはじまりだと言われている。窓のない地下室にもかかわらず、当時、借り手が殺到したとか。
1984年に法が改正され、空間の半分が地面下にあれば、地下と認定されるようになり、「半地下」が激増した。
