●『シークレット・サンシャイン』(2007年)
夫を失い、小さな息子と二人で慶尚南道の密陽(ミリャン)に移住してきた女性(チョン・ドヨン)をさらなる不幸が襲う。彼女の救いは地元の人に勧められた信仰のみ。しかし、それでも安らぎを得られないことに気づくまでに時間はかからなかった。彼女に手を差しのべるのは、俗物そのもののカーセンター社長(ソン・ガンホ)だけだった。
1990年代の屈託のないチョン・ドヨンと同一人物とは思えない鬼気迫る演技は高く評価され、2007年のカンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞した。単なるサスペンス映画ではないし、オカルト映画でもないのだが、心身の調子がわるくないときの視聴をおすすめしたい。
●『素晴らしい一日』(2008年)
元カレ(ハ・ジョンウ)に貸した金を返してもらいに来た女性(チョン・ドヨン)が、あろうことか元カレのクルマに同乗し、友人知人に金を借りて歩くのに同行するというユニークな設定だ。終始不機嫌なチョン・ドヨンとお調子者のハ・ジョンウのコントラストがみごと。頑なに心を閉ざしていた女性の心が少しずつほどけてゆく演技に、観る者の心もじんわりとあたたまってゆく。
●『ハウスメイド』(2010年)
2020年に米国アカデミー賞を独占した映画『パラサイト 半地下の家族』の構想に大きな影響を与え、2024年には評論家など映画関係者240人が選ぶ「韓国長篇映画100選」(韓国映像資料院)でベストワンに輝いた名作『下女』(1960年)のリメイク作品だ。
チョン・ドヨンは健気な家政婦役。先輩の家政婦役にユン・ヨジョン。家政婦をもてあそぶ富豪役にイ・ジョンジェ。その義母役にパク・ジヨンという豪華キャスト。小さな幸せと不幸せを行ったり来たりしながら、破滅に向かってゆく家政婦を演じたチョン・ドヨンの演技は、その妖艶さと哀しさが不思議な世界観をつくっていて、『シークレット・サンシャイン』とはまた違った怖さのあるトラウマになりそうな作品だ。
●『キル・ボクスン』(2023年)
演技の幅が広いことで定評のあるチョン・ドヨンが、マンガの登場人物のようなわかりやすいキャラクターをのびのびと演じて見せた作品。彼女が扮したのは、表は娘思いのシングルマザー、裏は腕利きの殺し屋だ。冒頭に登場するヤクザ(ファン・ジョンミン)との格闘シーンは、『ユア・マイ・サンシャイン』(2005年)でひたむきに愛し合った二人を演じた俳優の再会シーンとしてはあまりにも残酷で逆に笑ってしまう。しかも、二人の会話が奇妙な日本語で進行するというおまけ付きだ。
