5月5日に授賞式が開催された2025年の「百想芸術大賞」、映画部門では監督賞を『リボルバー』のオ・スンウク、女性最優秀演技賞を同作主演のチョン・ドヨンが受賞した。本作は復讐を描いたノワール作品で、監督のオ・スンウは日本にもファンが多い往年の名作『八月のクリスマス』の脚本を書いた人だ。

 チョン・ドヨン扮する主人公の刑事は、夢にまで見たマンション暮らしを目前にしながらトラブルに巻き込まれてしまう。すべての罪をかぶれば大きな見返りを得ることができるという投資会社理事(チ・チャンウク)の話を信じ、2年の刑期を終え出所するが、ことはそんなに上手く運ばなかった……。

 主人公の恋人役には『イカゲーム』のイ・ジョンジェが扮している。

■『百想芸術大賞』映画部門で女性最優秀演技賞を受賞したチョン・ドヨン、出演作ベスト7本!

韓国を代表する女優は?」と問われたら、日本のみなさんは誰を挙げるだろう。配信全盛時代の今、若手ならキム・テリキム・ゴウンベテランならキム・ヘスムン・ソリあたりかもしれないが、筆者なら迷わずチョン・ドヨンを推す。

 チョン・ドヨンは1973年生まれで、1992年に女優デビュー。純情娘から殺し屋まで幅広い役柄を演じ、30年以上トップスターの座に君臨している。その演技力はもちろん、出演作の選択眼も、その相手役の俳優の格も、間違いなく超一流だと思う。今回は彼女が出演した映画のなかから、その抜きん出た演技力を堪能できる7作を紹介しよう。(以下、一部ネタバレを含みます)

●『接続 ザ・コンタクト』(1997年)

 1990年代のチョン・ドヨンはファッションモデル出身のアイドル的な女優というイメージが強く、正直、のちに大女優と呼ばれるようになる人には見えなかった。本作はハン・ソッキュ扮するPDをはじめとするラジオ局で働く人々の人間模様を描いた映画で、当時としてはスタイリッシュな作風だった。そのなかでチョン・ドヨン扮する通販会社の電話オペレーターだけが朗らかで体温を感じさせる役柄だった。

 ハン・ソッキュとコミュニケーションする場面はごくわずかだが、今もソウル鐘路3街のピカデリー劇場(現・ピカデリー1958)の前に来ると、ラストシーンの若きハン・ソッキュとチョン・ドヨンの姿を思い出す。

『接続 ザ・コンタクト』撮影の一年後のピカデリー劇場

●『我が心のオルガン』(1999年)

 1960年代の田舎の学校に赴任してきた若い教師(イ・ビョンホン)と17歳の純情娘の恋物語。この頃から私たち韓国人はチョン・ドヨンが単なる可愛い子ちゃんではなく、かなりの演技派だと気づき始めた。歓喜あふれる純情娘を旋回するカメラが捉えた映像は、韓国映画の歴史を振り返る特集番組でよく使われる名場面だ。劇中、二人は結ばれないのだが、ラストシーンの一枚の写真だけがその後の幸せを物語る。なかなか奥ゆかしい作品だ。ドラマ『おつかれさま』のテイストが好きな人にはぜひ視聴してもらいたい。

●『初恋のアルバム ~人魚姫のいた島~』(2004年)

 チョン・ドヨンが島の純情海女とその娘の一人二役を演じた作品。彼女が読み書きできないことに気づいた郵便配達夫(パク・ヘイル)は、国語の教科書やノート、鉛筆をプレゼントして、いっしょに勉強を始める。ほめながら教える郵便配達夫の指導法と海女の猛勉強で読み書きはみるみる上達する。

 韓国語学習者ならわかると思うが、ハングルが少し読めるようになると、街なかのハングル看板を端から読みたくなるものだ。郵便配達夫の自転車の後ろに乗った彼女は島で見かけるハングル看板を次々に口にする。今まで読めなかった文字が読め、意味がわかるようになると、景色が違って見える。そんな初期学習者の喜びをチョン・ドヨンがおおらかに表現している。初期の傑作である。

『初恋のアルバム ~人魚姫のいた島~』が撮影された済州、東門市場の近くの歩道に刻まれた場面写真