韓国の賃貸生活は、立地や家賃だけでなく「どんな大家さんに出会うか」が暮らしやすさを左右する。保証金返還のトラブルに、突然の訪問、早朝の騒音……。30年で10回以上引っ越してきた筆者が振り返る、「ドラマよりリアルな」韓国の大家さん事情。
■韓国の賃貸契約は2年ごと、でも「居住継続」は簡単じゃない
韓国で暮らし始めて、かれこれ30年。これまで10回以上も引っ越してきた。そう言うと、「引っ越し好きなの?」と笑われることもあるけれど、韓国の賃貸制度ではむしろ普通だ。
チョンセ(保証金契約)もウォルセ(月払い)も基本的には2年更新(ウォルセは1年更新もあり)。不動産価格の変動や建物の事情で、更新時に保証金が一気に跳ね上がることもある。
ある日「次の更新では保証金を1000万ウォン(約100万円)引き上げます」と言われたら、期日までにその額を用意しなければならない。住み慣れた部屋でも、条件が合わなければ退去せざるをえないのだ。
そんな背景もあり、家探しと同じくらい重要なのが「どんな大家さんに当たるか」だ。中でもチョンセの場合は、数千万ウォン〜億単位(数百万円~数千万単位)の保証金を預けるのだから、大家の人となりは「暮らしの安定」そのものに関わる。
■ソウルで出会った、ちょっと困った大家さんたち
部屋選びよりも、大家さん選びが肝心――そんなふうに思うようになったのは、何度目の引っ越しからだったろう。
一軒家の2階を借りていた頃は、週に2〜3回、前触れもなく「ちょっと見に来たよ」と現れる大家さんがいた。「雨漏りは?」「換気は?」と毎回部屋をチェックされているようで、だんだん居心地が悪くなった。翻訳家の私は一日中、部屋にいることも多い。徹夜明けでぼさぼさの頭を他人に見せるのは恥ずかしかった。
オフィステルに住んでいたときの大家さんはアメリカ在住で、まったく連絡が取れないタイプだった。管理会社を通じて修理を頼んでも「オーナーの許可が必要」と言われるばかり。エアコンが壊れた真夏、扇風機だけで乗り切った夜は、二度と思い出したくない。
あるアパートでは、退去時に保証金返還トラブルが発生。引っ越し業者がうっかり、室内キーを荷物に紛れ込ませてしまった。「開封後にすぐお届けします」と説明したが、大家は「いますぐ渡さなければ保証金は返せない」と主張。仕方なくトラックの荷物を全部開けて鍵を探す羽目に……。保証金が「人質」になる瞬間は、あれきりで十分だ。
そして現在の住まい。私の住むビラの上には、80代の老夫婦の大家さんが住んでいる。ふだんは特に干渉もなく、いい大家さんなのだが、毎日が夫婦ゲンカの応酬。しかも朝が早く、始まるのはだいたい5時前後。私は真下の階に住んでいるので、怒鳴り声と物音がそのまま響いてくる。
先日、道でばったり会った大家さんは、「うちの旦那、また家出したのよ。58年で100回は出て行ってるわ」と、まるで天気の話のように言ってきた。翌日、また上から怒鳴り声が聞こえてきたので、どうやら無事に帰宅したらしい。