2010年前後、韓国ドラマの制作現場に新たなウェーブが起きていた。従来にはない独特のプロデュース・システムが誕生していたのだ。

 公共放送KBSのドラマ責任プロデューサーだったチェ・ジヨン氏は「文化産業専門会社」を立ち上げて、既存の韓国ドラマ制作にはなかった試みを始めていた。

■大ヒット時代劇『チュノ~推奴~』スタッフが語った、新たなプロデュース・システム

 チェ・ジヨン氏は、キャリアの中で『快刀ホン・ギルドン』『風の国』『チュノ~推奴~』『王女の男』などをプロデュースした。彼が主導して作ったのが文化産業専門会社である。この会社は放送局と外部資本が共同で投資をして作られたが、ここが主体になって作品を次々にプロデュースしていった。

 いわば、放送局と外注プロデュース社がリスクと収益を互いに分けるシステムができた、と言える。当時、その経緯をチェ・ジヨン氏が具体的に説明してくれた。

「文化産業専門会社は、放送局の安定的な財源と経験豊富な制作スタッフがいる外注プロデュース社の機敏な事業能力が結合した会社です。システムごとに長所と短所がありますが、最大限長所のみを集めてドラマを制作するために作った会社だと言えるでしょう。最初に制作されたのが『風の国』で、次に『チュノ~推奴~』を作りました」 

 文化産業専門会社が制作することによって、それまでのドラマ作りはどのように変わったのか。

「以前、時代劇というと歴史的な事実のみをそのまま描いた硬い内容が多かったのですが、我々は、ドラマとしての楽しさを追い求めるために、時代劇の枠の中でストーリーやキャラクターを現代的な感覚で描きました。それがフュージョン時代劇です。

 魔法を使うように空を飛びまわり、時代考証に当てはまらなくても衣裳を派手にしたりしました。さらに、歴史的な事実に架空の人物を入れた時代劇……。ファクト(事実)とフィクション(創作)を結合させたファクション時代劇というジャンルも生まれました。

 そのさきがけが『チュノ』です。この時代劇は歴史的な事実と虚構の人物を巧みに組み合わせており、多くの反響を呼びました」

 こうして実績をあげていった文化産業専門会社。新しいスタイルの時代劇を作ったわけだが、チェ・ジヨン氏がプロデューサーとして解決すべき問題は何だったのか。

「制作コストが上がっていることが問題でした。制作期間が長くなればなるほど、人のスケジュールを押さえておく必要がありますから。状況を良くしようとすると、制作コストの上昇が避けられません。少なくとも2・5倍という、日本くらいの水準になりたいと思いました。

 さらにアメリカのドラマ制作コストは韓国の10倍ですよ。そこまでは無理でも、俳優とスタッフが長い間一緒に作業することができるくらいにはならないといけませんね」