韓国ドラマの視聴者は男性より女性がずっと多かった。それによって、女性視聴者を強く意識した物語の設定が一般的だった。それでも、長く韓国ドラマを見ていると、物語が描くヒロイン像が随分変わってきたと感じる。たとえば20年前くらいは、「男性は裕福な御曹司タイプ、女性は貧しい境遇」というパターンがあまりにも多かったのだが……。

■韓国ドラマで描かれるヒロイン像が変わってきた

 韓国ドラマの人物設定のポイントは経済格差である。女性視聴者が憧れる「キャリアと経済力を持った男性主人公」と、反感を買わないような「裕福でない女性主人公」という組み合わせが多かった。

 さらに言うと、女性主人公の場合は能力的に「ごく一般」が定番だった。だからこそ、周りから助けてもらうことになる。つまり、常に受動的であった。そのほうが脇役の出番が多くなり、物語をたくさん作れるのだ。

 ヒロインが自分ですべてを解決してしまったらドラマにならないわけで、周辺の登場人物たちのちょっかいが物語を活性化させていった。しかも、出生の秘密や難病といった要素も加わってくる。そういう境遇の中で、御曹司のような男性主人公から救われるというのが、かつてはドラマの王道だった。

 韓国だけでストーリーが完結する場合はそれで良かったのだが、時代は大きく変わり、今では配信サービスによって韓国のドラマが世界でたくさん見られるようになった。そうなると、必然的に世界を意識した物語設定も増えてくる。

 ここ5年ほどを見ていると、自分で人生を切り開いていける活動的なヒロインが多くなっている。つまり、一昔前の「耐え忍ぶヒロイン像」とは一転しているのである。

 具体的な例を見てみよう。

●『愛の不時着』(2019~2020年)のユン・セリソン・イェジン)は、財閥グループの有力な後継者に指名されるほど優秀だった。

●『スタートアップ:夢の扉』(2020年)のソ・ダルミ(ペ・スジ)は、高い学歴がない中でIT企業の起業家として果敢に活躍していく。

●『赤い袖先』(2021~2022年)のソン・ドギムイ・セヨン)は、王宮で抑圧された生活を強いられる宮女でありながら、才能ある自立した女性として強い意志で人生を切り開いていった。

●『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(2022年)のウ・ヨンウ(パク・ウンビン)は、スバ抜けた記憶力と法律知識を持ち、さらには、独特のひらめきを生かして訴訟で成果をあげていた。

●『涙の女王』(2024年)のホン・ヘイン(キム・ジウォン)は、財閥グループのデパート部門トップとして抜群の経営センスを発揮していた。

●『オク氏夫人伝』(2024~2025年)のオク・テヨン(イム・ジヨン)は、外知部(ウェジブ/被告人の弁護人)として卓越した法律の知識を生かして地元の人々を大いに助けた。

●『わたしの完璧な秘書』(2025年)でヘッドハンティング会社のCEOカン・ジユン(ハン・ジミン)は、誰にも負けない営業力を持ち、とても有能な男性を秘書にしている。