Netflix『隠し味にはロマンス』は、地方都市、全州(チョンジュ)で路地裏食堂「ジョンジェ」を営むヨンジュ(コ・ミンシ)と、彼女のレシピを盗みに来た大手食品会社の二代目CEO候補、ボム(カン・ハヌル)のラブロマンスだが、最近のドラマによくあるように、物語は都会と田舎の対比がスパイスになっている。
そして、このドラマは、登場人物と視聴者に「あなたはどんな人生を送りますか?」と問いかけているようにも感じている。(以下、一部ネタバレを含みます)
■『隠し味にはロマンス』主人公、変わらぬヨンジュと変わったボム
本作の主要人物の多くは、全10話を通してなんらかの変化をする。変わらないのは、ヨンジュとミョンスク(キム・シンロク)の二人くらいだ。
とくにヨンジュは赤ん坊のときに母に捨てられ、山寺で育ったため、俗っぽい欲とは縁遠い。多くの韓国人の関心の的であるスペック(学歴、容姿など出世や物理的に豊かな暮らしに必要な条件)には興味がない。子供のころ楽しさに目覚めた料理の道をひたすら突き進んでいる。資本主義の申し子のようなボムのせいでトラブルに巻き込まれたりしたが、社会の物差しに振り回されず、自分の物差しで生きている。

そんなヨンジュが、ボムに問いかけたことがある。
「お金とか地位に関係なく、あなたには真心ってあるの? 一度考えてみて」
現実ではきれいごとと一蹴されてしまうような言葉が堂々と発せられるところが、ドラマや映画のよいところだ。
ヨンジュによって「サラムネムセ(人間味)」を取り戻したボムは、終盤で競争相手の兄ソヌ(ペ・ナラ)にこんな言葉をぶつける。
「ケンチャンニャ? ピョンセンウル イロゴ サヌンゴ(大丈夫か? 一生そんなふうに生きる気か?)」
全州での料理対決を終え、ハンソンの創業者ヨウル(オ・ミネ)が車中で息子のソヌに言う。
「今度ハルモニ(母)のお墓参りに行くときは声をかけて」
実際の墓参りは撮影陣を帯同して行われ、ソヌは「相変わらずだな」とため息をつくが、カメラが回っていないときにヨウルがポツリと漏らした「母さん、またね。ちょくちょく来ても嫌がらないでね」の言葉に、「やっぱり変わったのかな?」と、気持ちホッとしたような顔をする。
これがスペック競争に汲々とする韓国の視聴者に対するドラマの回答だろう。