部屋に生活感が一切ないのだ。棚やテーブルの置き物は、定規で測ったかのようにまっすぐ均等に並べられている。写真で送られてきていたゲストルームをのぞくと、ベッドのシーツはシワひとつなく、ぴっちりと張られ、奥の洗面所では、美しく折りたたまれたタオルが、角がぴたりと揃った状態で積み上げられていた。
あまりにも整った空間なので、ありがたさを通り越して、かえって落ち着かなかった。このベッドやタオルを使ったら、元通りにするのが大変そう……。そんなことを考えてしまい、どうにもくつろげないのだ。別の友人の言葉を思い出した。
「コイツの部屋、すごいよ。さすが元D.P.だけあって、めちゃくちゃきちんと片付けられているから」。
いやいや、これは「きちんと」なんてレベルではない。もはやアートの域。そういえば、彼の職業は芸術家だった。
1週間ほど滞在させてもらう予定だったが、ありがたく1泊だけさせてもらい、翌日にはホテルへ移った。もちろん、アパートを後にする際は、できる限り部屋を元通りにする努力をした。
D.P.は、徴兵された一般兵が捜査を担うという特殊な制度だった。法改正に伴い、2022年以降は専門の軍務警察官がその役割を担うようになり、一般兵がD.P.に任用されることはなくなった。ドラマで描かれていたように、その活動はとても過酷だったという。
彼のあの完璧主義は、D.P.時代に培われたものなのだろうか。それとも、こんな風にきっちりしているから、D.P. に任命されたのだろうか? そんな疑問がわいたが、気軽に尋ねてはいけない気がして、今も聞けずにいる。
「アパートを使ってもいいよ」と言ってくれたことには心から感謝している。でも、次からはやはりホテルに滞在しよう、そのほうが心置きなくくつろげる。そんなことを思いながら、彼のアパートを後にした。
●配信情報
Netflixシリーズ『D.P.-脱⾛兵追跡官-』シーズン1、シーズン2独占配信中
[2021年(シーズン1)/全6話、2023年(シーズン2)/全6話]監督:ハン・ジュニ 脚本:キム・ボトン、ハン・ジュニ 原作:キム・ボトン