韓国ドラマの中には、フィクションとは思えないほど生々しい現実を突きつけられるものがある。チョン・ヘイン主演のNetflixD.P. -脱走兵追跡官-』は、まさにそんな作品だった。

 若者たちが義務として兵役に就く韓国で、兵営から逃げ出したり、休暇から戻らなかったりした兵士を追跡する特別部隊「D.P.(Deserter Pursuit)」。そんなD.P.を2シーズンにわたって描いたこのドラマを見て、韓国の徴兵制度について改めて考えさせられたのだが、まさか自分の身近にも元D.P.がいるとは夢にも思わなかった。

■チョン・ヘイン主演『D.P. -脱走兵追跡官-』が教えてくれた、物静かな友人の軍隊時代

 韓国の男性の中には、お酒が入ると軍隊のことを話しはじめる人がいる。私の周りにもそんな友人が何人かいるので、この人は「海兵隊出身」、この人は「陸軍の憲兵(現・軍事警察)出身」という風に、誰がどこに所属していたかくらいは知っていた。

 でも、元憲兵の友人が、その中でもごく一部の兵士だけが就ける「D.P.」だったと知ったのは、このドラマを通してだった。というのも、彼が時々口にしていた「ディピジョ(D.P.組)」という言葉の意味を、ドラマを見てはじめて理解したのだ。普段は物静かな彼が、あの過酷な世界に身を置いていたとは……。

■ありがたい、でも落ち着かない……完璧すぎた元D.P.の友人宅

 さて、その元D.P.の友人。ソウル市民なのだが、数年前から韓国の北東部に位置する江原道との二拠点生活を送っている。春の訪れとともにソウルを離れ、江原道の山奥へ。そして冬の気配が濃くなる11月頃、またソウルに戻ってくる。真冬は寒過ぎて、とてもじゃないが住めないらしい。

「春は新緑がきれいだし、夏は涼しくて最高だよ」。そう楽しそうに話すのを聞きつつ、私には気になっていることがあった。彼のソウルのアパートが、3月から10月までの8ヶ月間、空き家になっているのだ。

 市内中心部に位置し、駅からも近い築浅の3LDKと聞いていた。こんなに条件のいい部屋を長期間空けておくとはもったいない。そんなことを思っていたら、私の心の声が聞こえてしまったのか、ある日、彼が「アパート、いつでも使っていいよ」と声をかけてくれた。

 コロナ以降、ソウルの借家を引き払い、必要に応じて日本から通っている私にとって、願ってもない話だった。昨今の物価高でソウルのホテル代も高騰している。友人の厚意にありがたく甘えることにした。

 お世話になる数日前に友人からメッセージが届いた。そこには、最寄り駅からアパートまでの道のりを収めた写真が何枚も添付されていた。曲がるべき角、目印になる店、そしてアパートの入り口。エントランスの暗証番号の押し方から、玄関ドアの電子ロック解除の方法まで、画像付きで丁寧に説明されている。

 その完璧なナビゲートのおかげで、迷うことなく部屋にたどり着くことができた。そして、玄関からリビングへ入った瞬間、私は思わず後ずさりしそうになった。

「……え? ショールーム?」

韓国では高層マンションのことを「アパート」と呼ぶ