韓国時代劇の傑作『イ・サン』『トンイ』を世に送り出した名脚本家キム・イヨン。彼女がその後に執筆した『ヘチ 王座への道』も名作の本流に連なっていた。時代劇において脚本の重要性は計り知れないが、本作は高い期待を裏切ることなく、重厚かつ繊細な人間ドラマになっていた。

チョン・イルの迫真の演技が主人公の温もりと痛みを大いに感じさせてくれた『ヘチ 王座への道』

 物語の主人公は21代王・英祖(ヨンジョ)。即位前の名前は延礽君(ヨニングン)であり、波乱の人生を歩んでいた。

 1694年、19代王・粛宗(スクチョン)の次男として生を受けたが、母は『トンイ』のモデルでもあった淑嬪・崔氏(スクピン・チェシ)だ。王の血を引きながらも、母が宮廷の下働きであるムスリ出身だったため、周囲から蔑まれ、「歓迎されない王子」として生きることを余儀なくされた。それだけ、彼の宮廷内での立場は脆弱なものだった。

 ドラマの舞台となる1720年代前半、朝鮮王朝は激しい派閥争いの渦中にあった。1720年に粛宗が世を去り、異母兄の景宗(キョンジョン)が即位したものの、病弱で決断力に欠けており、絶対的な統率力が望めなかった。

 権力の空白の中で、少論(ソロン)派と老論(ノロン)派の対立は極限に達し、国論は真っ二つに分かれていく。

 世弟(セジェ)として王位継承の資格があった延礽君だが、一歩間違えば逆賊として断罪されかねないという、薄氷を踏むような日々が続いた。

 このような極限状態に置かれた延礽君を、主演のチョン・イルが魂を込めて演じた。彼が本来持ち合わせている憂いを帯びた眼差しと品の良さが、孤独な王子の内面を見事に表わしていた。

 不遇な境遇に耐え、理不尽な攻撃を柳のように受け流しながら、将来に備えて爪を研ぐ……。そのプロセスを『ヘチ 王座への道』はテンポよく描いていた。

 チョン・イルの演技もさすがで、苦難の連続である主人公を生身の人間としてリアルに体現した。