ソウルの苛烈な競争社会を象徴するように、経済的に追い込まれた主人公が奇行、凶行に走る話は刺激的でハマリやすいが、視る者に気力体力を要求する。そんな世相を反映してか、最近は人間味あふれる農村での暮らしを描いて視聴者にヒーリングを疑似体験させるドラマも多い。

都会の部長 田舎へ行く ~異動先はシムウミョン ヨンリリ~』もそのひとつだ。主人公はパク・ソンウン扮するソウルの会社員テフン。突然の人事異動で家族とともに農村ヨンリリに移住。会社の命令に忠実に従い、実績を作ってソウル本社に復帰しようとすると同時に、生活習慣の違う村人たちと少しずつ親しくなり、心を通わせていく描写が涙ぐましく微笑ましい。(以下、一部ネタバレを含みます)

■企業か? 家族と農村か?『都会の部長 田舎へ行く』終盤でジレンマに陥る主人公

 朽ちかけてはいるが、ぬくもりのある木造住宅、鶏小屋、ウォールアート(壁絵)、道端のビーチパラソル、白菜畑、事務所代わりのコンテナハウス……。そんな視聴者を癒す農村アイテムが数多く登場する『都会の部長 田舎へ行く』。

 主人公テフン役のパク・ソンウンはノワール映画『新しき世界』で主人公(イ・ジョンジェ)を圧迫する冷徹な企業ヤクザの印象が強かったので、本作ではそのギャップの大きい役柄自体に視聴者を癒す役割がある。

 物語の終盤11話まで来て、テフンはかなり追い込まれている。企業人としては会社にそむくべきではないが、そうすれば村人たちを裏切ることになる。すったもんだがあったが、村人たちの人情と寛容性に助けられたテフンはその恩に報いたい。

テフン一家を困惑させたのは写真のような朽ちかけた木造住宅だった
地方の民家や市場の壁でよく見かけるウォールアート

 一方で、長男ジチョン(イ・ジヌ)をはじめとする息子たちに豊かな経験をさせたいと願い、夫の立身出世を望む妻ミリョ(イ・スギョン)の期待にも応えたい。

 さらに、ソウルやカナダで暮らしていた息子たちが急な環境変化にもめげず、子供らしい柔軟性を発揮して農村に適応しているその健気さも尊重したい。

 これを板挟みと言わずして何と言おう。

農民たちの訛りから判断すると、『都会の部長 田舎へ行く』の舞台設定は慶尚北道北部の可能性が高い。写真は嶺東線の車中から見たヨンリリによく似た慶北の田舎町
テフンの長男が開発したモヒートの原料、五味子(オミジャ)は『都会の部長 田舎へ行く』の撮影地、慶尚北道、聞慶(ムンギョン)の名物