■恐竜と“同世代”の植物が1994年に奇跡の発見!

 恐竜が生きていた時代、地球上は多くの植物に覆われていた。シダ類や松、ソテツ、イチョウなどの裸子植物が全世界に分布し、現在多くの種類がある、花を咲かせる被子植物は白亜紀のはじめ頃に登場した。

 恐竜が地上を駆け回っていた時代に生い茂っていて、現代ではすでに絶滅したと思われていた植物が、1994年に発見された。日本ではオウム真理教による松本サリン事件が起こった年である。

■人跡未踏の峡谷で発見された謎の巨木

人を寄せ付けない広大な国立公園の奥にその巨木はひっそり生き延びていた。

写真/Jameslamb , CC BY 3.0 , via Wikimedia Commons

 その植物が見つかったのは、オーストラリアのシドニーから北西に150km行った所に位置するウォレマイ国立公園。樹木が育つ唯一の峡谷は、高い砂岩の崖に囲まれており、その場所に行くためにはヘリコプターか、登山道具を必要とするため、それまで植物学者に発見されることはなかった。

こうした断崖絶壁に囲まれた小さな森で発見された「生きた化石」

写真/John Tann,CC BY 2.0,via WikimediaCommons

 新しい峡谷をしらみつぶしに探索していた研究者によって発見された成木は、小さな2ヶ所の森に40本以下しか存在しなかった。ただし、その高さは25〜40メートルに達し、幹の直径は1.2メートル以下と、かなり巨大。成熟した木はかなり長命で樹齢は500〜1000年と推定されている。発見後は6ヶ月の間秘密にされ、その植物が何なのか、研究に費やされた。

■20世紀最大の発見となった生きた化石

「ジュラシックツリー」ことウォレマイ・パイン。ただし、これはベルリン植物園/植物博物館で栽培されている、まだ若木のもの。

写真/Botanic Garden and Botanical Museum Berlin, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 この植物はナンヨウスギ科の常緑高木で、英語では「ウォレマイ・パイン」、日本では「ジュラシック・ツリー」と呼ばれる。

 最も古い化石は2億年前のものが発見されており、かつてはオーストラリア、ニュージーランド、南極に広く分布していた。現在は「生きた化石」と呼ばれ、ジュラシック・ツリーの発見は「20世紀最大の発見」と言われているのだ。

「ジュラシック・ツリー」は現在IUCNのレッドリストで絶滅危惧種(CR)に分類され、オーストラリアでは法的に保護されている。樹木の挿木が成功し、人口繁殖が可能になった後、シドニー植物園とアナン山に植えられた。

 ただ、発見後もジュラシックツリーには過酷な環境が待ち受けていた。2005年には野生の樹木が水カビに感染していることが確認され、無許可の訪問者によって持ち込まれたと危惧されている。2019〜2020年に起こったオーストラリアの大規模な山火事で、火災の危険にさらされたが、国立公園野生生物局専門の消防士によって間一髪、絶滅を免れた。

■そんな稀少植物が自宅で栽培できるって!?

こんな感じで鉢植えにもできるジュラシックツリー。

写真/David J. Stang, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

なんと国内でも、福岡市博多区の那の津公園で見ることができる!

写真/Hirho, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

「ジュラシック・ツリー」は種を保存するために回復計画として、オーストラリアの首相と外務大臣は、世界中のさまざまな政府高官に配布。日本では2004年の浜松花博で初めて紹介された。

 その後、オーストラリア政府の回復プログラムにより、「ジュラシック・ツリー」は現在世界中の植物園で栽培できるようになり、挿木で増やすことが可能なため今では一般人でも購入が可能になっている。

 地球の歴史を自分の自宅で感じられる「ジュラシック・ツリー」。なんともロマンチックな話だ。