■人の口を経るごとに“ドライブ”するのが怪談の醍醐味
青柳:だから、たぶん「ものをつくる」っていうことの基本スタンスが、吉田さんの場合はそこにあるんじゃないかと思いましたね。
吉田:そうですね。それ以外が「ものをつくる」ことでないとは全然思わないんですけど、私が目指すのはそこですね。私はあくまで取材者であって、「こんな素晴らしい話を考えたのは私だ」って意識はまったくないので。
青柳:そこがさっき仰った「ゼロから物語を作ることに興味がない」に繋がるわけですね。
吉田:それに、さっきお話したように「体験者→取材者→聞き手→その先の聞き手」と人の口を経るごとに変なドライブ感というか、エネルギーが上乗せされていくところも怪談の醍醐味の一つなので……。怪談蒐集家の煙鳥さんや怪談作家の高田公太さんと一緒にやっている『煙鳥怪奇録』(注3)のシリーズも、そこを強く意識していますね。
注3/『煙鳥怪奇録』竹書房文庫から「机と海」「忌集落」「足を喰らう女」の3冊が出ているシリーズ。煙鳥氏が蒐集した怪談を吉田、高田両氏が煙鳥氏に再取材して構成した怪談ルポルタージュ。
■『怪談青柳屋敷』の“律儀さ”の原点は意外なところに?
──吉田さんが怪談と向き合うスタンスにドキュメンタリー映画と相通ずるものがあるというのは面白い切り口でしたが、では、青柳さんの今回の作品の原点、吉田さんが先ほど「律儀」とおっしゃった部分はどこから来るんでしょうか?
吉田:これ、ちょっとミステリと怪談の共通点という話に戻りますけど、定型的な怪談だと読み手との共犯関係というか信頼関係というかがあって、細かな説明をすっ飛ばすところがあると話しましたよね。でも、それこそミステリやSFなども門外漢が読むと割と同じように説明を省略する感じがありますよね?
青柳:はいはい、ミステリなんか特にそうですよ。あえて説明しないところが。でも、それが僕は嫌なんですよね。だから、僕は説明を飛ばさないで全部書くんですよ。
吉田:あ、なるほど。じゃあ、青柳さんはもともとそういう気質があったと。
青柳:自分でも思ったんですけど、それ、塾講師の発想なんですよ。前に話したように長いこと塾で働いてたんですが、その当時も、何か物事を知らない子にはきちっと説明、プレゼンしたいなという気持ちがずっとあって。よく僕の小説は「初心者が読んでもわかりやすい」という感想を貰うんですけど、そういう塾講師の頃からの難しいものを難しいまま伝えたくないという気持ちが染みついているんでしょうね。
吉田:ほら、やっぱり看破してたじゃないですか。定型的な怪談がすっ飛ばす説明も全部きちっと書くとか、『怪談青柳屋敷』の“律儀さ”はそこに繋がるワケですよ。私の慧眼ですね(笑)。
青柳:確かに(笑)。吉田さんがそう評してくれたのは、たぶん、そういうことをちゃんと説明しようという気持ちが僕の中にあったのを見抜かれたんでしょうね。そう、だから今回の作品も、怪談を知らない人、全然怪談とか読まない人が読んでも面白いなと思えるものを書きたかったんですよね。
1980年千葉県生まれ。早稲田大学卒業。2009年『浜村渚の計算ノート』で第3回「講談社Birth」小説部門を受賞してデビュー。19年刊行の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は多くの年間ミステリーランキングに入り、本屋大賞にノミネート。『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は23年9月にNETFLIXで映画公開が決定している。「猫河原家の人びと」シリーズをはじめ多数のシリーズ作品のほか、『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』、『クワトロ・フォルマッジ』など著書多数。
1980年東京都生まれ。怪談作家、怪談研究家。早稲田大学卒業後、ライター・編集活動を開始。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、怪談の蒐集と語り、さらにはオカルト全般の研究をライフワークとしている。伝説的なオカルトスポット探訪マガジン『怪処』の刊行や、「クレイジージャーニー」(TBS)では日本の禁足地を案内するほか、月刊ムーでの連載やYouTubeなど各メディアで活動中。著作に『中央線怪談』、『現代怪談考』、『一生忘れない怖い話の語り方』、『禁足地巡礼』、『一行怪談』、『煙鳥怪奇録』(共著)など多数。