【夜街怪談】「大阪・梅田に走る霊道」の噂の源流はどこに？　そのカギは江戸時代に遡り明治期に消えた無縁仏を供養する奇妙な風習「大坂七墓巡り」にあった!?【第11回】

■梅田で見つかった「１５００体の遺骨」の謎

　取材を進めてみると、梅田にまつわるこんなニュース記事を見つけた。２０２０年８月、現在も建設計画が進む、大阪駅北側の再開発地区「うめきた2期区域」内にある墓地跡で１５００体以上の人骨が発見されたのだ。この墓地跡とは、「大坂七墓（おおさかななはか）」のひとつ、梅田墓のことだ。

注１／江戸時代初期に定められた行政区画で「北」「南」「天満」の三つに区分けされたエリア。現在でいうとおおよそ中央区全域、北区と西区の一部にあたる。

　大坂七墓とは、江戸時代に大坂三郷(注1)のなかに存在した寺や墓地を大坂（現在は大阪）内の7か所に移動させた墓地の総称だ。梅田の他に南浜（豊崎）、葭原（天神橋筋六丁目）、蒲生（東野田町）、小橋（天王寺）、飛田（西成）、千日（千日前）とされている（注２）。

注2／この他、時代や資料によって長柄、木津、福島、天王寺などが加えられることもある。

　偶然にも、霊道が通ると噂されていた天神橋筋六丁目交差点から梅田にかけては、ちょうど「葭原」「南浜」「梅田」の近くである。また、Bさんとは別の読者からの投稿でも「梅田駅の近くには霊道が通っている」という噂は20年も前からあったという（諸事情で怪異体験をした場所を明かすことはできないが、「梅田墓」の目と鼻の先だった）。さらに、前回の記事で触れた「千日デパート火災」が起こった現場も、実は目の前が千日墓地だったことがわかった。

■霊道の噂の源流は奇習「七墓巡り」にあった!?

　もちろん、単なる偶然では……と思うかもしれない。「墓が近くにあれば霊道なんてアホか！」と一笑に付す方も少なくないだろう。だが、さらにこの「大坂七墓」について調べを進めていくと、こんな奇妙な風習があったことがわかった。

　江戸時代の中期から明治初期にかけて、お盆の夜に大坂七墓を巡る「七墓巡り」が町人達の間で大流行したのだそうだ。そもそもは七墓の各所に葬られた無縁仏を供養する風習だったそうで、夜っぴいて鉦（かね）や木魚、太鼓を叩いて念仏を唱え、あるいは念仏踊りなどをしていたという。

　さらにここからが大坂らしい話だが、後になると町人たちは弔いを楽しみながら陽気に七つの墓を巡り、なんなら、若い男女のデートコースとしても人気だったのだとか。しかも、この大坂七墓巡りは現代に復活しており、2011年から「大阪七墓巡り復活プロジェクト」として毎年お盆の時期に開催されている（詳細は参考文献リストのリンクから）。

■七墓巡り「巡礼路」の記憶が「霊道の噂」に変化した？

　上の地図を見てほしい。江戸時代当時とは地形や道が変っているので、あくまで推測上のルートだが、グレーで示したのが梅田～南浜～葭原の七墓の巡礼路と考えられる。実際、南浜墓の近くにあるお寺には、いまも「七はか（墓）道」と往時の巡礼路を示す石碑が残っているそうだ。

　明治に入り梅田に鉄道が敷かれ、七墓も整理移転されたこともあり、この「七墓巡り」という奇習もすたれてしまった。ただ、「お盆の時期になると、夜通しで霊や無縁仏を弔う人々が通る道」という記憶がいつしか、「お盆に霊が行き来する道」さらにはお盆も関係なく「霊が行き交う道＝霊道」という噂にすり替わっていったのではないだろうか？

　もっとも、亡くなった方がその記憶につられて今でも七墓巡りの道を彷徨っている……ということもありえるかもしれない。

　そもそも七墓巡り自体が、日本各地から寄り集まったこの地とは無縁の人々が、同じくこの地で無縁仏となった人を弔う「誰が参加しても、誰の霊を供養してもいい」という、ある意味、大阪らしいあけっぴろげなイベントだった。

　また、梅田に限らず夜の街は、誰がどこから来ようと気にしない、なんとなれば「人間だろうが化け物だろうが、亡霊だろうが誰でもウェルカム！」な匂いのする場所だ。そんな場所で七墓巡りのような記憶のある街となれば、フラフラしている浮遊霊のひとつも呼び寄せておかしくはないのかもしれない。