ミステリ作家の青柳碧人さんが自ら取材した怪談をまとめた『踏切と少女 怪談青柳屋敷・別館』(双葉文庫)が8月10日に発売された。昨年刊行され、怪談ファンの間で話題を呼んだ実話怪談集『怪談青柳屋敷』の続編で、実在する誰かが体験した不気味な体験・奇妙な体験を62話収録している。その刊行を記念して、青柳さんがいま注目しているという人気怪談師・チビル松村さんとの対談が実現! その模様を全3回にわたってお届けします。
取材・文=朝宮運河 撮影=宮本賢一
■青柳さん、よく変な人に遭遇しますよね?
チビル松村(以下・松村) 『怪談青柳屋敷』、2冊とも読ませていただきました。どちらもすごく面白かったです。
青柳碧人(以下・青柳) ありがとうございます。気になった話はありましたか。
松村 いろいろありましたが、気になったといえば1巻目に入っていたブレーキの話(「怪談未満の人びと」)ですね。
青柳 僕が学生時代地下鉄に乗っていたら、はす向かいに座っていた女性が近づいてきて、「次はちゃんと、ブレーキ踏んでよね」と言ったという話。わけが分からない体験でした。前世で何かしたのかなとも思うんですけど。
松村 ブレーキは何かの比喩なのかもしれません。いくらでも想像が膨らむ話で、これは大好きでした。それと読んでいて思ったのは、霊感のある人の体験談をよく書かれていますよね。僕たちが怪談を話すときは、お客さんの共感を得やすくするために霊能者系の話は避けがちなんです。
青柳 ええ、体験者に霊感があると書かない、金縛り時の体験であっても金縛りとは書かない、という有名なテクニックがありますよね。その方が確か「地続き感」が出て怖いのかもしれませんが、まあ僕はそこまでこだわらなくてもいいかなと。あくまで聞いたまま書く、というスタンスでやっています。
松村 青柳さん自身の体験もいくつか載っていますが、よく町で変な人に遭遇していますよね。「脳みそをよこせ」とぶつぶつ呟いている人とか……(笑)。
青柳 それは外でよく仕事しているからですね。人の目がないとつい怠けちゃうんです(笑)。外にいる時間が長いから、普通の人より変な目に遭う確率が多少は高いのかもしれない。
■体験談を「怪談」に仕上げる道筋
松村 普段、ミステリのお仕事もしながら、怪談も書かれているんですよね。どうやって二つのジャンルを両立しているんですか。
青柳 怪談は趣味、いつも書いてるミステリは仕事という感じが強いですね。もちろん趣味といっても真面目には書いているんだけど。ルーティーンとして、毎日仕事に入る前に好きな怪談を書くんです。それでエンジンをあっためてから、本業のミステリに入るという流れが多いですね。『怪談青柳屋敷』シリーズは、そんなルーティーンから自動的に生まれた本なんです。
松村 そういえば医者の友人が、仕事をうまく進めるには簡単な作業から着手するのがいいって言ってました。メールを返すとか、不要なファイルを削除するとか、
青柳 そんな感じです。小説家の仕事って1日30枚書けても、次の日が0枚だったら駄目なんですよ。それより毎日10枚書き続けることが大切で。
松村 怪談取材のメモはどうされています? やっぱりスマホで録音ですか。
青柳 いや、僕は基本的には録音しないんです。簡単なメモを取るだけ。慣れてくると取材しながら、「これはこういう順番で書くといいかな」という構成も見えてくるので、忘れないうちにそれを作品化するという感じですね。怪談師の方はどうやって取材を語りに仕上げていくんですか。
松村 人によって違うんですが、僕は構成をあまり変えないですね。基本人から聞いたままです。くり返し語っているうちに余計な部分がそぎ落とされて、完成されていくという感じだと思います。