■幽霊が出なくても怪談は成り立つ

烏骨鶏

チビル松村氏が披露する「烏骨鶏とお祖母ちゃん」の怪談とは(写真はイメージ)

画像:shutterstock

松村 そう言っていただけると嬉しいです。鶏といえばこんな話を聞いたことがあります。職場の後輩の女性なんですけど、彼女のお祖母ちゃんが余命宣告を受けて、自宅療養されていた時の話です。

 お祖母ちゃんがお昼にみんなを呼んで、「今から庭の烏骨鶏(うこっけい)が卵を産むから、それを持ってきてくれ」というんですって。その鶏はこれまで7年飼っていて、一度も卵を産んだことがないんですが、言われるままに見に行くと、なんと初めて卵を産んでいた。どうも霊感のあるお祖母ちゃんらしいんですね。お祖母ちゃんはその卵を、満足そうにコップに入れて飲んだんですって。

 

青柳 ロッキーみたいですね。

 

松村 次の日もまた「卵を産んでいるはずだ」と言って、家族に持ってこさせた卵を飲む。そんなことを2週間ほど続けて、お祖母ちゃんは亡くなったんです。ところがその直後、家の敷地内を見たことがない鶏が歩いている。

 そういえばお祖母ちゃんは生前、死んだら鶏になりたいと言っていたな、とみんな思い出したそうです。その鶏は初七日を過ぎた頃まで家にいて、いつの間にかいなくなっていた、という話です。

 

青柳 いいですね。みんなの物の見方が、一連の不思議な出来事を怪談として成立させている。すごくチビルさんっぽい怪談です。みんな怪談って幽霊が出てくるものだと思っているけど、幽霊が出なくても怪談として成り立ちますからね。そもそもチビルさんの怪談に、幽霊が出てくるものってあるんですか。

 

松村 さすがに幽霊はありますよ(笑)。でも血まみれの女が襲ってくる、みたいな分かりやすい話はないかもしれません。

 

 

■チビルさんの怪談は性善説ですね

深夜のタクシー
深夜3時、路上に突如現れたのは……(写真はイメージ) 画像:shutterstock

青柳 それが先日、ついに血まみれ幽霊の話を取材したんです! ある人が深夜3時頃、車で信号待ちをしていると、左側の窓に一瞬、血まみれの女の人が見えたんですって。驚いて見返したけど、誰もいない。妙だなと思って青信号で発進しかけたところ、今度は運転席のすぐそばにその女が立っていた。

 

松村 典型的な血まみれの幽霊ですね。

 

青柳 これがリアルなんだけど、その人はすぐに「あれは本当の怪我人だったんじゃないか」と心配になったらしいんです。それで戻ろうかと思った瞬間、前の車に衝突しそうになって急ブレーキを踏んだ。しかもその交差点は、さっき女に遭遇した地点から車で10分くらい離れていた。

 車ごとワープしたのか、10分ほど意識を失っていたのか分かりませんが、ひょっとしたらその女はドライバーを気絶させて、事故に遭わせようとしていたのかもしれない、という話です。

 

松村 事故に遭うから気をつけろよ、と警告してくれた可能性もあるんじゃないですか。居眠りしないように脅かしてくれたとか。

 

青柳 それはまったく考えたことがなかった(笑)。チビルさんの怪談は性善説ですね。おばけ座(※2)の人たちは割とそうかもしれないけど。

※チビル松村、深津さくら、ワダ、伊勢海若の4人が2023年に結成した怪談ユニット。それぞれが取材・蒐集した怪談を公式チャンネルで語るだけでなく、積極的にイベントも開催。公式HPはこちら。YouTube公式チャンネルのリンクは下に。

 

松村 そういう傾向はあるかも。善人ぶる気はないですけど、同じ体験談でもポジティブな解釈をする方が、体験者に喜んでもらえることが多いですから。

 

【第2回に続きます/9月1日18時公開予定】

 

※おばけ座YouTube公式チャンネルより

 

踏切と少女 怪談青柳屋敷・別館
踏切と少女 怪談青柳屋敷・別館

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』『赤ずきん、旅の途中で死体とであう。』などで人気のミステリ作家、青柳碧人が好きすぎて蒐集し続けたとっておきの実話怪談をまとめた短篇集の第二弾。今回も不思議で奇妙な体験談が勢ぞろい。