■幽霊が出なくても怪談は成り立つ
松村 そう言っていただけると嬉しいです。鶏といえばこんな話を聞いたことがあります。職場の後輩の女性なんですけど、彼女のお祖母ちゃんが余命宣告を受けて、自宅療養されていた時の話です。
お祖母ちゃんがお昼にみんなを呼んで、「今から庭の烏骨鶏(うこっけい)が卵を産むから、それを持ってきてくれ」というんですって。その鶏はこれまで7年飼っていて、一度も卵を産んだことがないんですが、言われるままに見に行くと、なんと初めて卵を産んでいた。どうも霊感のあるお祖母ちゃんらしいんですね。お祖母ちゃんはその卵を、満足そうにコップに入れて飲んだんですって。
青柳 ロッキーみたいですね。
松村 次の日もまた「卵を産んでいるはずだ」と言って、家族に持ってこさせた卵を飲む。そんなことを2週間ほど続けて、お祖母ちゃんは亡くなったんです。ところがその直後、家の敷地内を見たことがない鶏が歩いている。
そういえばお祖母ちゃんは生前、死んだら鶏になりたいと言っていたな、とみんな思い出したそうです。その鶏は初七日を過ぎた頃まで家にいて、いつの間にかいなくなっていた、という話です。
青柳 いいですね。みんなの物の見方が、一連の不思議な出来事を怪談として成立させている。すごくチビルさんっぽい怪談です。みんな怪談って幽霊が出てくるものだと思っているけど、幽霊が出なくても怪談として成り立ちますからね。そもそもチビルさんの怪談に、幽霊が出てくるものってあるんですか。
松村 さすがに幽霊はありますよ(笑)。でも血まみれの女が襲ってくる、みたいな分かりやすい話はないかもしれません。
■チビルさんの怪談は性善説ですね
青柳 それが先日、ついに血まみれ幽霊の話を取材したんです! ある人が深夜3時頃、車で信号待ちをしていると、左側の窓に一瞬、血まみれの女の人が見えたんですって。驚いて見返したけど、誰もいない。妙だなと思って青信号で発進しかけたところ、今度は運転席のすぐそばにその女が立っていた。
松村 典型的な血まみれの幽霊ですね。
青柳 これがリアルなんだけど、その人はすぐに「あれは本当の怪我人だったんじゃないか」と心配になったらしいんです。それで戻ろうかと思った瞬間、前の車に衝突しそうになって急ブレーキを踏んだ。しかもその交差点は、さっき女に遭遇した地点から車で10分くらい離れていた。
車ごとワープしたのか、10分ほど意識を失っていたのか分かりませんが、ひょっとしたらその女はドライバーを気絶させて、事故に遭わせようとしていたのかもしれない、という話です。
松村 事故に遭うから気をつけろよ、と警告してくれた可能性もあるんじゃないですか。居眠りしないように脅かしてくれたとか。
青柳 それはまったく考えたことがなかった(笑)。チビルさんの怪談は性善説ですね。おばけ座(※2)の人たちは割とそうかもしれないけど。
※チビル松村、深津さくら、ワダ、伊勢海若の4人が2023年に結成した怪談ユニット。それぞれが取材・蒐集した怪談を公式チャンネルで語るだけでなく、積極的にイベントも開催。公式HPはこちら。YouTube公式チャンネルのリンクは下に。
松村 そういう傾向はあるかも。善人ぶる気はないですけど、同じ体験談でもポジティブな解釈をする方が、体験者に喜んでもらえることが多いですから。
※おばけ座YouTube公式チャンネルより