■実話怪談はクラフトビールに似ている?
青柳 実話怪談ってクラフトビールに似ているなと思うんです。取材したままではどうしても飲みにくいので、澱(おり)を取ったり味を調えたりする必要はある。でも、自分の表現を加えすぎるとビールじゃなくてシャンディーガフになっちゃうから、そこはバランスですよね。松村さんは、メモは文章で取っているんですか。
松村 最近はパワーポイントでまとめています。必要な情報が羅列してあって、画像や写真が貼りつけてある。それを眺めて、喋りやすい順番で喋っています。
青柳 へえ、面白い。怪談のレシピみたいなものですね。それ、公開したらいいんじゃないですか。チビルさんのファンは絶対欲しがりますよ。僕も見てみたいし。
松村 個人情報を黒塗りにして、コミティア(※1)とかに出したら面白いかもしれない。1000ページくらいになったら公開しようかな。怪奇現象の貴重な資料として(笑)。
※1 今年2024年で40周年を迎えた「創作ジャンル」に限定した同人誌即売会。マンガのほか小説、評論、イラスト集など幅広いクリエイターが集う。
青柳 こういうやり方もあるのか、と真似する人も出てくると思いますよ。今、個人情報という話が出ましたけど、怪談でどこまで体験者のプロフィールを明らかにするかは迷うところですよね。たとえば舞台になった地名はどうしてます?
松村 市町村くらいまでは明らかにします。東京都内だったら駅名までは言いますね。たとえ意味がなくても、具体的な固有名詞が出るだけでリアリティが違ってくるので。まあ話の内容にもよりますけど。たとえばUFOが出たという話なら、詳しく地名を言ってもOK、みたいなケースバイケースのところはあります。青柳さんの本は体験者の年齢・性別が、はっきり書かれていますよね。
青柳 そうした方が分かりやすいと1巻の時に言われたので、2巻では必ず書くようにしています。
■チビル松村“手羽先怪談”の魅力
松村 怪談を取材していると、取材相手から「そんな怖い話なんてないよ」とよく言われますよね。
青柳 言われる。でもこっちが例としていくつか話すと、「そんな話でいいんなら」と口を開いてくれることも多いですよ。不思議な体験をしていても、本人はそれを怪談だと捉えていないんです。そういう話も怪談として成立する、と示したのはチビルさんの功績が大きいじゃないですか。
松村 説明のつかない不思議な現象が起こっていたら、それは怪談にカウントしていいと思います。僕の中で怖さはあまり関係ないんですよ。
青柳 鶏の手羽先って昔は捨てるところだったって言うじゃないですか。それを名古屋の人たちが名物にして、みんなが美味しく食べるようになった。チビルさんの怪談はそれに似ている気がしますね。手羽先怪談(笑)。