夜の街は、華やかな表情の裏に、時折「人の姿をした怪物」が隠れていることがある。前編で紹介したように筆者(カワノアユミ)も20代の頃、歌舞伎町のキャバクラで遭遇していた。店のキャストたちからは憧れの存在だったキャバ嬢・カナエと付き合うようになり、急速に派手さを増していった大学生のミキは、いったいどこへ姿を消してしまったのか?
■きな臭い噂だけが流れ…
翌日、カナエの姿はあったが、ミキは相変わらず休んでいるようだった。ミキが2日続けて休んでいる状況に私は少し心配になったものの、店が忙しくて誰もそのことに関心を寄せていないようだった。
そしてその後も、ミキは出勤せず、次の週になっても姿を見せなかった。一方で、カナエは変わらず普通に出勤を続け、特にミキのことについて話題にすることもなかった。まるでミキなどはじめから存在しなかったように……。
カナエのの不気味なほどの沈黙がかえって不安を募らせ、私は何か異変が起きているのではないかと心の中で疑念を抱き始めた。店長も何度かミキに連絡を取ろうと試みたが、一切取れないようで、徐々に良からぬ噂が流れるようになっていた。
「ミキはカナエとよく飲みに行ってから、派手な生活をしているって話だよ」
「ホストクラブにもハマってるらしいし、もしかして借金ができたんじゃない?」
噂はどんどん膨らんでいき、真相がわからないまま、カナエやミキのイメージだけが悪い方向に変わっていく。それでも誰も直接ミキに確かめることはできず、ただひたすら陰で囁くのみだった。
■無関心のウラに透ける違和感
ある日、店長が業を煮やし、カナエにミキのことを尋ねているのを見かけた。
「カナエ、ミキと仲良かったようだけど、何か知っていることはないか?」
カナエはそれに対して、海外の映画かドラマみたいに大げさに肩をすくめて、
「さあ、知らないですね」
興味なさそうに一言だけ呟いた。ただ、その無関心そうな返答とは裏腹に彼女の言動にはどこか引っかかるものがあった。
「……何かわかったら教えてくれ」
ため息交じりに店長は念を押したが、カナエはやはり興味なさげに、ただ「はーい」とだけ応え、すぐにどこかへ行ってしまった。
私も、なんとなくミキのことが気にかかっていた。それから数日後の夜、営業後に店の送迎車を待ちながらコンビニで時間を潰していると、普段はあまり目にしないようなゴシップ誌がふと目に留まった──。
■雑誌の記事がミキに重なり…
芸能人の裏話や、いわゆる「都市伝説」的な記事が載っている雑誌で、何気なくページをめくっていると、ある記事が目に飛び込んできた。
「……………」
その漫画には、巧妙に仕組まれたホストクラブの恐ろしい世界が描かれていた。
ホストと女が共謀し、ターゲットとなる女性に親しく近づく。最初は軽く飲みに誘うだけだが、徐々に一緒にホストクラブに通う頻度が増していく。ホストクラブの魅力に引き込まれた女性は、やがて高額なボトルをせがまれるようになり、気がつけば膨大な借金を抱えてしまう。
そして借金を返済するために、地方の風俗店で働くこととなる。借金を返し終わる前にふたたびホストクラブに連れ戻され、今度はさらに高額な金額を使わされる。こうして、返済と借金の繰り返しが続く……という、まるで地獄のような無限ループが描かれていた。
その漫画のページをめくりながら、私は背筋が凍るのを感じた。当時は今ほどホストクラブの実態が世間に知られておらず、こういった話がリアルなのかどうかもわからなかった。