「事故物件ブーム」の陰で泣く全国の大家のために立ち上がった“事故物件専門”不動産コンサルティング会社・株式会社カチモードの全貌を追う記事の完結編となる第4回。
前回(第3回)では、同社代表の児玉和俊さんが大手不動産会社で働いていた当時に遭遇した、人生初の怪異体験について紹介した。「開かずの間」のはずの部屋、存在しないはずの鍵、物件を依頼した仲介業者A氏との話は結論が出ず、遂に、問題のマンションに二人揃って立ち入ることに──。
■いや、絶対ここにあったはず…
翌日の午前中、児玉さんがマンションに着くと仲介業者のA氏はすでに来ていた。
「ほら、鍵あったでしょう?」
と児玉さんが声をかけると、「どこにあるんだよ」とムッとした顔をされた。A氏が言うとおり、昨日3階で見たキーボックスがあった場所には何もなかった。
「おかしいなぁ……あ、でも、昨日これで写真撮っておいたんですよ──」
と言いつつ、帰り際にデジカメで撮ったキーボックスの画像をA氏に見せようとしたのだが……。
「──えっ、あれ?」
最後に撮ったはずのキーボックスと鍵の画像だけ、真っ黒で何も映っていなかった。
「この2枚がキーボックスの画像と鍵の画像だったんですよ。ほら、部屋の中はこうなって、気持ち悪いでしょ?」
と児玉さんは焦って説明したが、「鍵がないのに入れるわけないだろ」と、A氏はいらだった声で返し、まともに画像を見もしなかった。やがて、鍵の業者が到着し、301号室のシリンダー錠をドリルで壊して、ドアを開けた。
■A氏の口から衝撃の事実が…
A氏と一緒に301号室の中に入ると、児玉さんが昨日見たとおりの部屋だった。さっきまで昨日確かに見て、触ったはずの鍵もキーボックスも消失していて、自分の記憶に不安を感じていた児玉さんは、
「ね、Aさん、この下駄箱に茶色のお札のような紙があって、ほら、あそこ! 部屋中に貼った痕があるでしょ。だから、昨日も──」
と興奮気味に説明をしていたが、1分も経たないうちにA氏は、さっきまでのいらだちがウソのようにスーッと落ち着いた声で言った。
「……児玉くん、外、出ようか」
押し黙ったままのA氏の後に続き、外廊下に出ると、再び彼が口を開いた。
「ほんとうに、昨日、中に入ったんだよな?」
だから言ったじゃないですか──と児玉さんが再び前日の説明を繰り返す。だが、A氏はその言葉を遮るように、児玉さんの顔をじっと見て、少し青ざめた表情でこう言った。
「児玉くん、この部屋はね、前の大家の時に女性が立て続けに二人、首をくくったんだよ」
■「開かずの間」誕生の経緯とは
このマンションが特定されるのを恐れ、事件の詳細は伏せるが、当時A氏が語ったことによれば、301号室が「開かずの間」となった経緯はこうだ。
実は、現在の大家はこのマンションの以前のオーナーから1棟丸ごと購入していた。そして、前のオーナーの時に事件は立て続けに起こった。
当時のオーナーは気味悪がり、部屋中にお札を貼ると鍵をかけ、なんと、そのまま鍵を捨ててしまったのだという。そして、301号室は存在しない部屋として、全9戸ではなく全8戸のマンションとして、現在の大家に売却された。
ただ、現在の大家は他の部屋が満室になったら、301号室にも入居者を募集しようと考えていた。ところが、301号室の真下の201号室、101号室にまで借り手がつかない。角部屋で条件はいいにもかかわらず、マンションはいつも101~301の縦に並んだ3部屋だけが空室だったという。