旅行はもちろん、移住先としても日本人に人気のタイ。温暖な気候や穏やかな空気感が気に入り、多くの日本人が暮らしているが、日本人が犠牲となる事件も少なくはない。現在、タイのパタヤに滞在中のカワノアユミが、タイ在住の長い日本人Aさんから聞いた「二度とタイに来れなくなった日本人夫婦」の話だ。
■ある日本人夫婦の不穏な体験
「書いてもいいけど、友だちに迷惑かけたくないから、絶対に場所などはぼかしてね……」
そう語りはじめたのは、タイに長らく暮らす日本人男性Aさん。彼が語ってくれたのは友人夫婦が体験し、二度とタイに来られなくなった“不穏な話”だ。Aさんの友人を仮に智之さんとしておこう。読み進めてもらえばおわかりいただけるが、智之さん夫婦が巻き込まれた“事件”は、実はまだ終わっていない。
事件当時、智之さんから相談を受けたので、Aさんはかなり詳細に事件について語ってくれた。ただ、下手をすると智之さん夫婦に危険が及ぶ可能性もあるので、ここから先はAさんから訊いた智之さんの体験談をもとに、かなりぼやかした「読み物」としてまとめたのをご理解いただきたい。
それは今から数年ほど前、コロナ禍でタイと日本の行き来が遮断される以前に、智之さん夫婦が遭遇した不穏な体験談だ──。
■高級ヴィラで感じた“いやな気配”
「ようやく着いたな~」
バンコクから車で数時間のとあるリゾート地。智之(当時40歳)のそんな明るい声が響いた。彼はフリーランスで仕事を行なうかたわら投資家としての顔をもっており、これから妻の美由紀とともにタイで暮らす予定だった。今回は新たな住まいを探すため、タイのとあるリゾート地へ下見にやってきたのだった。
「こんなに安く泊まれるなんて、日本じゃ考えられないよな」
「智之が探してくれたんだもんね。でも、本当にこんな豪華なヴィラがこんな値段でいいのかな?」
不安そうに呟く美由紀を、智之は笑い飛ばした。
「高級ホテルも日本みたいにぼったくり価格じゃないし、本当に安いよな」
ヴィラは確かに驚くほど安かった。広大なプール付きの敷地、周囲は高い塀で囲まれ、完全なプライバシーが確保されている。だが、どこか手入れが行き届いていない印象もあった。それに時折、植え込みの隙間から“なにか”がこちらを見ているような気配がして、少し気になった。
■日本人オーナーの“ある提案”
「はじめまして、山岡です」
智之の気がかりを打ち消すように、穏やかな笑顔で迎えたヴィラのオーナーは、日本人の中年男性だった。落ち着いた雰囲気で、現地で長く暮らしているのだという。
「初めてのタイで、お二人がうちのヴィラを選んでいただいて光栄です。なにか困ったことがあれば、なんでも相談してください」
その親切な対応に智之たちはすぐに打ち解けた。ただ、智之と親しげに話す山岡が、時折、不自然な方向に視線を送ることに、美由紀は不可解なものを感じた。
初日はヴィラのプールでくつろいだり、現地のナイトマーケットでシーフード料理などを楽しんだりした。今回は1週間の滞在予定だったのだが、滞在3日目の午後、山岡が“ある提案”を持ちかけてきた──。