■沖合の無人島へと案内されて…
「地元の人しか知らないビーチがあるんですよ。観光地では味わえない特別感を楽しめるので、よろしければご案内しますよ」
山岡の説明に、智之は目を輝かせた。
「最高じゃないですか! ぜひ、行きたいです!」
美由紀は少し躊躇(ちゅうちょ)したが、智之の強い押しに負けて頷いた。
翌日の早朝、山岡の運転する小型ボートで、二人は沖合の無人島へ向かった。波は穏やかで、エメラルドグリーンの海がどこまでも広がっている。
「すごい…本当にこんな場所があったんだ」
無人島に降り立った二人は感動した。山岡は遠浅のビーチに船をつけて二人を下すと、
「夕方には迎えに来ますから、二人だけでゆっくり過ごしてください」
と言って、ボートで戻っていった。
■島の奥から漂う「不快なにおい」
智之と美由紀は無人島を満喫した。そして夕方……陽が傾き始めても、山岡は迎えに来ない。スマートフォンは圏外で連絡も取れない。焦り始めた二人は、島の奥から漂う“奇妙なにおい”に気づいた。それは、生ゴミとも腐った肉ともつかない、不快な臭気だった。
二人が臭いのもとを辿ると、そこには奇妙な光景が広がっていた。壊れたビーチチェアがいくつも置かれ、その周囲にはボロボロになったスーツケースや衣服が散らばっている。どれも見たことがある日本のブランドのものだった。
「智之…これ、どういうこと?」
美由紀の声が震えている。智之は「ただのゴミだよ」と言いかけたが、口を閉じた。ビーチチェアのひとつに“赤黒いなにか”が乾いた跡のようにこびりついていたからだ。
その時、後ろから声がした。
「お前たちも、山岡に騙されたのか?」
タイの名前も知らない無人島で、いきなり日本語で声をかけられ、ギョッとして振り返ると、ボロボロの服を着た男が立っていた──。