第4回では、どうしようもない八方塞がりのときにはオオクニヌシの神社へお参りしましょう、とご紹介しました。今回は、そのオオクニヌシ自身が、様々な助けを借りながら多くの試練を乗り越え、成長していったという神話をご紹介します。「どうしようもないときにこそオオクニヌシ」という納得のエピソードがこれほど並ぶ神様も珍しいでしょう。

 

兄神のパワハラに耐えながら…

 

八東川

ヤガミヒメの故地とされる旧八上郡。直線距離で出雲から130キロ以上。それを大荷物を背負って……。(写真は現在の鳥取市南部を流れる八東川)。

画像:Bakkai at Japanese Wikipedia, CC BY 3.0 , via Wikimedia Commons

 

 まずは「けっこう苦労人だったのね」という伝説から。若い頃はオオナムチと名乗っていたオオクニヌシには、八十神(やそがみ)と言われる多くの兄神たちがいました。その兄神たちが、因幡(いなば)ヤガミヒメと結婚しようと、一番若いオオナムチに荷物を背負わせて従者として連れていったそうです。

 

 途中、毛皮を剥がされて丸裸にされて苦しんでいたウサギに、八十神たちは、

 

「海水を浴びて風に当たると治るぞ」

 

 と言って騙し、素直に従ったウサギは皮膚が裂け、痛くて大泣きするはめに──。

 

白兎海岸

オオナムチと白兎が出会った伝説の地とされる島根県の白兎海岸。

画像:shutterstock

 

 そこに通りかかったオオナムチが事情を聞くと、淤岐(おき)の島から渡ってくるために騙したサメに皮を剥がされたあげく、八十神に騙されてさらにひどいことになった、とのことでした。

 

 そこでオオナムチは、川の真水で体を洗い、蒲の穂を敷き詰めて転がれば治るだろう、と教えてあげました。すっかり元通りになったウサギは、「ヤガミヒメは八十神ではなくオオナムチを選ぶだろう」と予言し、その通りになったのです

 

 

「因幡の白兎」は現代日本の縮図?

 

因幡の白兎像

「因幡の白兎」といえば、童話や同様で皆さんも一度は触れたはず。

画像:Aimaimyi, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 いわゆる「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)のお話ですが、読者の皆さんも童話や教科書で読んだことがあるでしょう。

 

 そもそも、ウサギがサメを騙したところから始まったことです。現代の日本なら「そんなの自己責任だろ」「自業自得だ」くらいに言われかねません。それに、八十神たちのやりようは、デマを流してまで弱ったものを袋叩きにする現代社会への皮肉のようにもみえます。

 

 しかし、オオナムチはそんな愚かなことは一切せず、見ず知らずのウサギに治療法を教えてあげました。そして、そんなオオナムチだからこそ、ウサギも過ちを認めて改心し、後に「兎神」と呼ばれるようになるのです。

 

白兎神社

白兎を縁結びの神として祀る出雲の白兎神社。

画像:shutterstock

 

 ヤガミヒメが、兄神たちの従者のようだったオオナムチを選んだのも、こうした心根を見抜いたからでしょう。ただ、これでめでたしとはならず、オオナムチはさらに酷い目に遭うことに……。