■イ・ジョンジェは共演者を光らせる役者

 しかし、イ・ジョンジェが演じたキャラターで強烈な印象を残したものは? と問われると答えに窮してしまう。個人的に記憶に残っている映画は、『純愛譜』『10人の泥棒たち』『新しき世界』『暗殺』などだが、いずれもイ・ジョンジェより共演者が光っている。

 いや、イ・ジョンジェが共演者を光らせているのかもしれない。そのわかりやすい例が、『新しき世界』のファン・ジョンミンである。劇中、強さと弱さが表裏一体の刑事役イ・ジョンジェと、企業型暴力団のタフで脂っこい幹部役ファン・ジョンミンのコントラストはみごとだった。物語の主役はイ・ジョンジェだが、ギラッと光って見せたのはファン・ジョンミン。そんな印象である。

 特別上手くはないが、絵になり、一挙一動が心地よい。存在感がある。こう書いていて、ある俳優を思い出した。日本の高倉健だ。あの人の演技が上手いという話はあまり聞いたことがない。『居酒屋兆治』は大好きな映画だが、高倉健が上手いというより、ただ魅力的な酒場主人がいる。そんな印象だ。まあ、それこそがいい役者なのかもしれないが。

 なにしろ兆治を囲むコの字カウンターに座る人々がみな生き生きとしていた。田中邦衛、小松政夫はその好例だろう。高倉健とイ・ジョンジェが似ているとは言わないが、共演者を光らせるという点では共通している。

映画『新しき世界』韓国版ポスター。手前からチェ・ミンシク、ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ。主人公なのに前面に出ていないところに、逆に彼らしさを感じる