■平凡な男(イ・ジョンジェ)と非凡な女(キム・ミニ)のコントラスト

 ウインが焦がれた女性ミアを演じたのが、ここ数年ホン・サンス監督作品でディーバを演じ続けているキム・ミニだ。『純愛譜』は彼女の映画デビュー作である。

 前回、イ・ジョンジェは共演者を光らせると書いたが、本作のキム・ミニがまさにそれだ。赤い髪、けだるそうな話し方、腰にハート型のタトゥー、バイクに乗ったジェンダーレスな女性と怪しげなクラブに出入りする。ものごとに頓着しないように見えるが、その女性にだけは執着があるようだ。謎多き女ミアのインパクトは絶大である。凡庸なウインがそばにいると彼女の個性はより際立つ。出番は多いとは言えないのに、後のキム・ミニのキャラクターがすでに完成されているのもすごい。

 この20年後、キム・ミニはホン・サンス監督の映画『逃げた女』で『純愛譜』の舞台、北村を歩くことになる。奇妙な符号である。

『純愛譜』でウイン(イ・ジョンジェ)がアイスクリームを食べながら歩いた北村の高台を筆者も歩いてみた。左側が北村の伝統家屋街。右手が三清洞
キム・ミニがホン・サンス監督作品『逃げた女』で歩いた北村の高台。筆者も同じ場所に立ってみた
北村の高台から西方向を望む