■全羅道では宴会や接待に欠かせない、ホンオ(ガンギエイ)料理

 ホンオ(洪魚)とはガンギエイのこと。全羅道、とくに南部でよく食べられている。かつてはその匂いや、むせかえるような揮発性の刺激から全羅道以外の人たちには敬遠されがちだったが、この十数年間で各地のローカルフードが全国区となり、ホンオに対する抵抗感はだいぶやわらいだ。

全州の高級韓定食店でコースのメイン級の扱いで供されたホンオフェ(左)。このようにエイの刺身・茹で豚肉・発酵の進んだキムチの3品をいっしょに食べることを三合(サマプ)といい、全羅道では最高のもてなし料理だ
三合にマッコリを添えたものを洪濁三合(ホンタクサマプ)と呼ぶ

 コロナ前までの国内旅行ブームで全羅南道の離島・黒山島に行ってエイを食べる人も増え、本場では意外と発酵が進んでいない(匂いや刺激が少ない)ものを食べることを知った人が多いのも、抵抗感が減った理由のひとつだろう。

黒山島で50年以上エイをさばいている「ウリ食堂」の女将。黒山島は映画『茲山魚譜-チャサンオボ-』でソル・ギョングが演じた実在の学者・丁若銓が流されたところ

 全羅道ではキワモノどころか、宴会や接待に欠かせない食材だ。2017年の大ヒット映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』では、運転手(ソン・ガンホ)とドイツ人記者(トーマス・クレッチマン)が光州の民間人宅におじゃまするシーンがあった。

 このとき私は「この先の展開、読めた!」と独り合点したものだった。光州の人がエイ料理でもてなし、二人を悶絶させると思ったのだ。実際は高価なエイは供されず、南部でよく食べられている芥子菜キムチ(カッキムチ)でドイツ人記者がヒーヒー言うにとどまった。

黒山島の知人宅で供された三合。このとき、知人は豚肉ではなく鴨肉を奮発してくれた。右上が映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』でドイツ人記者を悩ませたカッキムチ

 刺身にしてコリコリとした軟骨ごと食べるホンオフェがよく知られているが、ほかにホンオチム(蒸し煮)、ホンオタン(鍋)、ホンオジョン(チジミ)などもある。

 最近は東京の新大久保や三河島、大阪のコリアンタウンなどの韓国料理店でも食べられるようになったと聞く。我が国の料理に慣れた日本の韓国リピーター諸氏にもぜひ味わってみてもらいたい。