■『マイ・ディア・ミスター』の波及効果は時間が経つごとに無限に広がっている

 今年のカンヌ国際映画祭で是枝裕和監督が演出した韓国映画ベイビー・ブローカー』がコンペティション部門に選出されて、監督や出演陣がレッドカーペットを颯爽と歩いていったが、とりわけIU(イ・ジウン)の姿が本当にまぶしかった。彼女も世界の映画ファンが注目する華やかな場に登場することができて感無量であったことだろう。

 よく知られているように、IUが『ベイビー・ブローカー』で我が子をベイビー・ボックスに預ける母親を演じることになったのは、是枝裕和監督が『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』を見てすっかり気に入ったことがきっかけになっていた。

 特に、是枝裕和監督は『マイ・ディア・ミスター』で薄幸ながら懸命に生きるヒロインを演じたIUの大ファンになってから、準備していた新作映画の主要キャストになってほしいと要請した。そうした経緯があってIUが『ベイビー・ブローカー』に出演することになったのだが、是枝裕和監督だけでなく、今後は『ベイビー・ブローカー』を見た世界中のファンがIUの演技に好感を持って『マイ・ディア・ミスター』にも強い関心を示すようになるかもしれない。

 それにしても、改めて『マイ・ディア・ミスター』を見て痛感したのは、ヒロインのジアンを演じたIUの「悲しみより深い哀しい素顔」であった。

 イ・ソンギュンが演じたドンフンが勤める大手建築会社の派遣社員をしているジアンは、職場の粉末コーヒーを余分に懐に入れたり、掛け持ちのバイト先で残飯を持ち帰るような女性だった。しかも、生活に困窮しているだけでなく、障害を持っている祖母の面倒を見なければならないし、幼なじみの借金取りに執拗に付きまとわれて激しく暴力まで振るわれてしまっていた。

「見るに堪えない」と感じた人も多かったようで、ドラマの序盤で離脱してしまう視聴者も少なくなかった。

 しかし、本当に途中で見ることをやめてしまえば、近年の韓国ドラマの金字塔ともいえる傑作を完全に見逃してしまうわけで、それはあまりに残念すぎる。やはり、このドラマだけは絶対に最後まで見たほうがいい。そうすれば、どんよりとした雲間から徐々に日の光がさしてくるかのようなワクワク感をたっぷり味わうことができる。