結局、ジアンは盗聴によってドンフンの生活ぶりを知り、自分も本当に苦しいが同じようにドンフンも寂しさに必死に耐えている中年の男性であることを悟るようになる。

 さらに彼女は、祖母の月見を手助けしてくれたドンフンに、今までの辛い人生で一度も味わったことのない「隣人の善意」を感じるようになる。それが積み重なってジアンはドンフンに好意を持ち、同時に、閉ざしていた心を周囲の人たちに向けて少しずつ開いていくようになった。

 こうした変化の一つひとつをIUは研ぎ澄まされた感性で丁寧に演じていった。特に、人の善意を信じられるようになってからのジアンの表情には「救い」と「希望」が宿ってきた。その変化を表現したIUの演技は本当に見事だった。

 今や巨匠と称される是枝裕和監督のプロの目がIUに熱く注がれたとき、彼女のカンヌへの道も自然につながっていった。『マイ・ディア・ミスター』が生み出している波及効果は、時間が経つごとに無限に広がっているように思える。

『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』© STUDIO DRAGON CORPORATION