■父が海苔巻き屋を営んでいる理由とは?
就職難が深刻な我が国では高学歴の人が飲食店を経営してもなんら不思議ではない。だが、1990年代後半の大学在学中に生まれた娘のヨンウが、ソウル大、さらにソウル大ロースクールを卒業して就職するということは、父グァンホはもう50歳に手が届くはずだ。
名門ソウル大の法科を出たアラフィフの男性が海苔巻き屋をやっている。しかも、チェーン展開するオーナーではなく、自身で惣菜とごはんを海苔で巻いていると聞いたら、たいていの韓国人は「?」となるだろう。
これが、ドラマ『二十五、二十一』や映画『国家が破産する日』で描かれた1997年末のIMF通貨危機でリストラされた人が、やむなく飲食店を始めたというならまだわかるが、グァンホは子育てのために法曹界への道をあきらめているので、就職した可能性は低い。
グァンホが海苔巻き屋を始めた理由。それはズバリ、ヨンウのためだろう。彼はヨンウのためなら何でもする。1話の冒頭に出てきた手作りの感情表現シートは、自閉スペクトラム症で表情に乏しいヨンウのめに、喜怒哀楽のさまざまな表情を自撮りして作ったものだ。怒りや不満、心配などネガティブな感情だけで写真が12枚もある労作である。娘に対する父の愛情の深さが伝わってくる。
ヨンウは海苔巻きしか食べられない。未婚の父となったグァンホが粉ミルクや離乳食を経た娘のために、海苔巻きづくりに励んだことは想像に難くない。やがてそれが生業になったと考えるのが妥当だろう。店名に娘の名前を冠していることからもそれは明らかだ。