■韓国人が済州に癒される理由とは?

 我が国における済州人気の理由を説明するには、日本を例に挙げるとわかりやすい。

 韓国人に「日本の魅力は?」と問えば、多くの人が「静かなところ」と答えるだろう。筆者がよく取り上げている韓国の下町や路地裏の情緒、ソウルの鍾路3街のようなカオスな魅力は、レトロブームの今でこそ注目されているが、韓国人にとっては日常であり、新鮮に感じられないどころか、煩わしく思っている人も少なくない。

 そんな韓国人にとって、雑音が少なく、整理整頓された日本の街は大変魅力的だ。道行く人の話す声は総じて韓国より小さい。車道の近くを歩いていてもクラクションの音にビクッとすることが少ない。朝、繁華街を歩いても道端のごみ袋の中で酸化したキムチの匂いを嗅がないで済む。繁華街の看板も極彩色を競うような我が国と比べれば刺激は3割引きだ。

 済州の魅力もそれに近いものがある。視るもの、触れるもの、聴くものなどすべてが韓国人にはやさしく感じられるのだ。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』で、オープンカーに乗った上司チョン・ミョンソクの涙腺を崩壊させたのは、濃い緑のトンネル、髪を撫でる風、清々しい草木の香りだった。

 また、『私たちのブルース』でも、オクドン(キム・ヘジャ)とドンソク(イ・ビョンホン)親子を確執から解放したのは、済州中央部にそびえる韓国の最高峰(標高1950メートル)の漢拏山(ハルラ山)だった。

済州市、西埠頭防波堤から漢拏山を望む

■日本人にとって済州の魅力は? 沖縄と比較すると…

 済州の風物は日本の人の心にも響くだろうか?

 あくまでも筆者の主観だが、これについては正直自信がない。20数年前から仕事や遊びで何度も日本の人とともに済州を訪れているが、彼らの多くが済州を「大味だ」と評していた。無理もない。日本は北東から南西にかけて長くのびた列島なので景観が変化に富んでいる。南北が分断され、片翼(北朝鮮)をもがれたままの我が国では悔しいが太刀打ちできない。

 ともに独立国だった点など共通項が多いといわれる沖縄と比較しても、済州は少々分が悪い。沖縄は首里城(2019年に火災で焼失)を中心とした琉球王国時代(1429~1879)をモチーフとした観光資源が充実しているが、それに比べると済州の耽羅国時代(古代~15世紀初め)はさらに時代を遡ることもあり、史跡がいくつかある程度だ。

 年間の平均気温は沖縄が約23度、済州が約16度なので南国感は沖縄優位。筆者は20年前に那覇に行ったが、米軍基地があることもあり、異国情緒という点では沖縄に軍配が上がると思う。筆者は世代的に日本コンプレックスが強いので、沖縄vs済州の観光資源対決には異論もあるだろう。ぜひ日本の人の目から観た済州の魅力をご教示願いたい。

火山の島、済州らしい石垣の風景
異国情緒という点では沖縄に及ばないが、民泊から西洋的なリゾートまで宿泊施設の多様さでは済州も負けていない。写真は中文観光団地のリゾートホテル