Netflixドラマ『ナルコの神』は事実上、ハ・ジョンウ(1979年生まれ)とファン・ジョンミン(1970年生まれ)のW主演といってもいい贅沢な作品だ。

 表は牧師、裏は麻薬王。欲望と殺意を笑顔でラッピングしたようなファン・ジョンミンの演技が物語の核として機能していたため、全6話を一気見したという人も少なくなかったはずだ。

「ローマは一日にして成らず」というが、ファン・ジョンミンの演技も約30年の積み重ねから今日のような味わいを生むようになった。今回は彼が出演した映画を振り返りながら、演技史をひもといてみよう。

■映画デビュー作にしては出番の多い『将軍の息子

『将軍の息子』(1990年/イム・グォンテク監督 )は日本植民地時代の京城(今のソウル)が舞台で、今の明洞や忠武路を牛耳る日本人商圏と鍾路を守る朝鮮人商圏の対立を描いている。とはいえ、そう重たくもなく、ブルース・リーの映画のような娯楽アクションとして作られているので、日本人でも楽しめるだろう。

 当時、二十歳のファン・ジョンミンは、朝鮮の侠客たちが巣食うキャバレーの若い支配人に扮している。客にペコペコしたり、殴られたりする役なのだが、驚くべきはそのたたずまいが今の彼と直結していることだ。30年前のデビュー作ですでにファン・ジョンミンが確立されていると言っていいだろう。本作は「韓国映像資料院(한국고전영화 Korean Classic Film)」のYouTubeで無料視聴できるので、ぜひそれを確認してもらいたい。

https://youtu.be/EidX2DPPSBw

■出番はほんの一瞬だが、しっかり仕事をしている『シュリ

 日本では本作で初めて韓国映画を意識した人も多いといわれる『シュリ』(1999年/カン・ジェギュ監督)。90年後半から韓国映画を代表するジャンルとして確立され始めた南北分断ものの金字塔だ。

 主演はNetflixドラマ『ペーパー・ハウス・コリア 統一通貨を狙え』で存在感を示したキム・ユンジンと、当時、全盛期だったハン・ソッキュ。肝心のファン・ジョンミンの出番だが、よく筆者の講座で「どこに出ていたでしょう?」とクイズにするくらい短い。2秒あるかないかだ。被疑者を尋問する調査官役で、表情はやわらかいが、目はしっかり相手を疑っているという演技は、さすがファン・ジョンミンというしかない。

■バイセクシャルの放浪者がサマになっていた『ロード・ムービー

 長髪ひげ面で、しかもゲイ寄りのバイセクシャルという役柄から、2、3回観て初めて、「えっ! あの人ファン・ジョンミンだったの?」と気づいたのが『ロード・ムービー』(2002年/ キム・インシク監督)だ。

 韓国映画には『鯨とり』のアン・ソンギをはじめ個性的な放浪者が多く登場するが、寡黙で笑顔が少なく、土地土地で肉体労働をして旅費を稼ぎ、「風の吹くまま、気の向くまま」を全身で表現しているファン・ジョンミンも、魅力的なナグネ(旅人)の一人である。