■ドラマ『シスターズ』のあたたかい豆腐と、映画『オアシス』の寒い豆腐
『シスターズ』の“出所豆腐”は、出迎えた者の心づかいか、豆腐がサイコロ状に切られていたり、爪楊枝が用意されていたりしたこともあり、心あたたまるシーンだった。
出所はめでたいことだが、ふつうムショ帰りの者に世間の風は冷たい。そのため、ドラマや映画では出所後の豆腐の場面は寒々しく描かれていることが多い。そのいい例が、リアリティの巨匠イ・チャンドン監督、ソル・ギョング主演の名作映画『オアシス』(2002年)だ。
ひき逃げによる過失致死で2年半の実刑を受けたジョンドゥ(ソル・ギョング)が出所した。出迎えはいない。ちょっと足りない彼は家族の厄介者である。しかたなく一人バスに乗って実家のある街に向かう。入所したのが夏だったのか、真冬なのにアロハシャツ姿だ。吐く息が白い。いかにもムショ帰りといった感じの短髪がいっそう寒々しい。
乗り換えるバスを待ちながら、ジョンドウは後ろに並んでいる男性にタバコをねだる。男性は関わりたくもないといったふうにタバコ1本を渡す。前に並んでいる女性も彼に冷たい視線を送る。世間の人たちには彼は人ではなく、山から下りて来た猿にしか見えないようだ。
ようやく実家に戻るが、家族は引っ越していた。電話番号も変わっている。ジョンドウはシュポ(小さな食料雑貨店)で一辺が10センチはありそうな大きな豆腐を買い、店先でかぶりつく。店の主人はぶっきらぼうだが、すべてを察したのか、お代はいらないと言う。おまけに「ソウル牛乳」までくれて、これを飲みながらゆっくり食べなさいと言う。出所した彼を初めて人間扱いしたのはシュポの主人だった。
しかし、そのあとの二人の会話が寒かった。
ジョンドゥ「ソウル牛乳じゃなく、ヘテ牛乳ないですか? 牛乳はヘテが旨いんだけど」
主人「……」
醤油もかかっていない出所後の真っ白な豆腐も韓国情緒のひとつだが、豆腐はできれば真っ赤なあつあつのチゲ(鍋)で、憂いなく食べたいものだ。