どういうわけか、たまに猛然と食べたくなるがある。

 私の場合は、ピビムミョンなどの辛い麺がそれだ。いや、「どういうわけか」ではない。理由ははっきりしている。むしゃくしゃしたときに食べたくなるのだ。辛さ(痛覚)によってストレスを発散するとでもいうのだろうか。私に限らず、そんな韓国人は少なくない。

釜山で食べたピビムククス。左上のソースをかければ、さらに辛くできる。韓国ドラマ『深夜食堂fromソウル』では、日本版『深夜食堂』のお茶漬けシスターズが、ククス(麺)シスターズに変わっていて、もっとも気性の激しい女性の好物が激辛ピビムククスという設定だった
スープなしの冷麺、ピビムネンミョン

チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺)

 韓国人が猛然と食べたくなるのが辛い麺とは限らない。映画やドラマによく登場する韓国式中華料理、チャジャンミョンは甘い食べものだ。登場人物が黒いソースを嬉々として麺にからめ、夢中で食べているシーンはよく見られる。

 その甘味のせいか、1960~1970年代は脂っこいものに飢えていたせいか、「テストでいい点を取ったら出前してあげる」と母に言われて食べた記憶のせいか、一生食べてはいけないと言われたら、かなり困る食べ物といえそうだ。

チャジャンミョンは、韓国の映画やドラマにもっとも多く登場する麺かもしれない。写真は釜山の釜田市場で食べたもの

 そんな韓国人のチャジャンミョン愛を誇張表現した映画が、『彼とわたしの漂流日記』(2009年)だ。人生を半分捨ててホームレスのように暮らす主人公(チョン・ジェヨン)と浮世をつなぎとめていたのがまさにチャジャンミョンだった。この映画はPrime Videoでも視聴できるので、ぜひ観てほしい。