■『赤い袖先』ジュノ扮するイ・サンが切実に求めた愛

 一方、『赤い袖先』は、王になるべくして生まれた世孫イ・サン(ジュノ/2PM)と、彼に愛された宮女ソン・ドギムイ・セヨン)の運命の愛を描いたドラマチックな王宮ロマンスだ。こちらは、王の求愛を2度にわたって拒んだというイ・サン(朝鮮王朝第22代王・正祖)の宮女(のちにサンの側室となる宜嬪ソン氏)の逸話をもとに描いた同名小説を原作にしたもの。史実を背景にしており、ロマンスも重厚で、胸をしめつけるような展開もある。 

 とはいえ、重苦しい物語ではない。幼い日の初めての出会い、時を経て再会した2人がああだこうだ言い合いながら心を近づけていく様には、ツンデレあり、愉快な駆け引きありで、ラブコメ風味満載。序盤からニヤニヤしながら観られるのだ。

 そんなサンとドギムの関係は、世孫(のちに王)と宮女という、まさに主従の関係。この時代、宮女はすべて「王の女」とされ、「王のもの」だった。そのなかでもサンにとってドギムは特別な存在だった。なぜなら彼女は、王宮のなかで政敵に囲まれ、常に危険にさらされている彼の孤独を知り、彼が王になるまで「私がお守りします」と命をかけるのだ。キム秘書同様、「忠誠心か、愛か」は、わからないところが、サンを悩ませる。

 サンは、繰り返し言葉にする。「お前は私のものか」「お前は私のものだ」と。さらに、「たかが宮女の身で、私を命がけで守るといったお前を愛さずにはいられようか」と。つまり、サンにとってドギムは、「私側の人」であり「私の味方」でいるべき人、そうであってほしい人だった。それが、サンが切実に求めた愛だった。

『赤い袖先』(C)MBC

 だが、ドギムは宮女という仕事を誇りに思い、「自分自身の道を歩みたい」という理由で、王の特別な女になることを拒み続ける。自信満々でプロポーズし、キム秘書からにこやかに断られた副会長と、ある意味重なるわけだ(ただし、その後の行動は異なる)。

 大きな責務を背負い、孤独な境遇ゆえ、自分の胸のうちを明かせる「私の味方」を欲した男と、そんな男のすべてを理解し、成し遂げたいことが叶うように支え、それでも「自分らしく生きる道」を求めた女の、駆け引きロマンス。そんな視点から『キム秘書〜』と『赤い袖先』を見比べてみるのも面白いかもしれない。

 さらにいえば、『赤い袖先』は、現代に生きる女性たちの「私の人生探し」の朝鮮王朝版ともいえる。自分の人生をやり直したいと子育てを終えて、かつての夢に再挑戦する『2度目の二十歳』(主演チェ・ジウ)や『医師チャ・ジョンスク』(主演オム・ジョンファ)のヒロインたちは、現代版ドギムなのだ。

●作品情報

『キム秘書はいったい、なぜ?』

[2018年/全16話]出演:パク・ソジュン、パク・ミニョン、イ・テファン

(C) STUDIO DRAGON CORPORATION

『赤い袖先』

[2021年~2022年/全17話]出演:ジュノ(2PM)、イ・セヨン、カン・フンイ・ドクファ

(C) 2021 MBC