今夏配信の注目エンターテイメント作品、Netflix『ゾンビバース』全8話を一気に観た。本作は、韓国発のゾンビ・リアリティ番組だ。
2016年、韓国初の本格的ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(コン・ユ主演)を観て以来、続編の『新感染半島 ファイナル・ステージ』(カン・ドンウォン主演)やNetflix『#生きている』(ユ・アイン主演)、Netflix『今、私たちの学校は…』(パク・ジフ主演)など、Kゾンビ(韓国のゾンビもの)には注目してきた。
筆者が高校生だった1979年、新宿でゾンビ映画の金字塔『ゾンビ』(ジョージ・A・ロメロ監督)を観て以来、多くの同ジャンル作品をチェックしてきたが、リアリティ・サバイバル番組の手法を取った『ゾンビバース』は、従来のゾンビものとは一線を画すアイデア満載のエンタメ作品だった。
ゾンビものの多様で奥深い世界に多くの人に足を踏み入れてもらうために、その魅力をお伝えしよう。
■Kゾンビ×リアリティ番組『ゾンビバース』、名作ゾンビ映画へのオマージュも
『ゾンビバース』の物語はバラエティ番組を収録中のソウル・弘大(ホンデ)で始まる。ゾンビものの多くは、戦争や人種差別、格差社会、エゴイズム、享楽的な消費文化などに対するアンチテーゼとして作られているので、その舞台として弘大はふさわしいだろう。十数年前なら江南の狎鴎亭洞や新沙洞が選ばれていたかもしれない。
家柄、学歴、ルッキズム、投資熱などをめぐる苛烈なスペック競争で疲弊している韓国とゾンビものの親和性は高い。ゾンビはある意味、終末やリセットを望む人々の潜在意識の現れといえるからだ。まだ記憶に新しいと思うが、『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、コン・ユ扮する冷徹なファンドマネージャーがゾンビとの戦いを通して、人間性や父性を取り戻していく話だった。
『ゾンビバース』では、ゾンビと戦うチームを構成する主要キャラが10人ほどいるので、展開を理解するのがなかなか難しい。それを助けてくれるのが、画面上に頻繁に表示される文字情報だ。これは、アメリカのゾンビ映画『ゾンビランド』で効果的に使われていた手法である。
そして、前半のハイライトといえるのが、チームが「スターマート」というスーパーマーケットに避難し、ゾンビと戦うシーンだ。主人公たちがスーパーなどの商業施設に籠城する設定はゾンビものの王道で、ロメロの『ゾンビ』や『ドーン・オブ・ザ・デッド』はもちろん、英国のダニー・ボイル監督の『28日後』やエドガー・ライト監督の『ショーン・オブ・ザ・デッド』にも継承されている。日本のゾンビ映画も例外ではなく、『アイアムヒーロー』の籠城先はアウトレット、Netflix『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』の籠城先は新宿歌舞伎町のドンキホーテという設定だった。
このスーパーの場面で笑ったのは、ポン菓子売りのおじさんが米をお菓子に変える懐かしい機械を使ってチームを救うシーンだ。ポン菓子おじさんに扮したのは、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』7~8話の村長役が印象的だったチョン・ギュス。田舎のおじさんを演じさせたら右に出る者がいない俳優だ。このシーンはロメロの後期作品『ランド・オブ・ザ・デッド』で、夜空に花火を打ち上げてゾンビの気をそらすシーンへのオマージュのようにも思えた。