映画『ただ悪より救いたまえ』(2020年/日本公開2021年)を鑑賞して印象に残ったのは、主役のファン・ジョンミンでもイ・ジョンジェでもなく、バンコクに住むトランスジェンダーを演じたパク・ジョンミンだった。ふつうなら彼の女装にばかり目が行くところだが、お人好しで人情に篤い役柄がパク・ジョンミンにぴったりハマり、愛すべきキャラクターとしてすんなり受け入れることができた。

 しかし、私たち韓国人が女装やセクシャル・マイノリティに慣れてきたのはここ十数年のことではないだろうか? Netflixシリーズ『D.P. -脱走兵追跡官-』シーズン2に登場したニーナ(ペ・ナラ)がその例だが、最近は女装やセクシャル・マイノリティがメディアで露出されても大騒ぎしなくなった。

 儒教思想が根強く、セクシャリティに対して保守的な私たち韓国人が生の属性があいまいな人たちに、ある程度寛容性をもつまでには長い年月を要した。今回は、そんな我が国で果敢に女装の役に挑んだ俳優たちを見てみよう。

韓国映画で女装の役に挑んだ男性スター&男優選

アン・ジェウク『チム~あこがれの人~』(1998年)

 この映画の前年に主演したドラマ『星に願いを』が中国でも大ヒットし、国際的スターとなったアン・ジェウク。元祖韓流スターとまで呼ばれた彼の女装は当時、インパクト絶大だった。

 放送局のAD(アン・ジェウク)が意中の女性(キム・ヘス)に近づくために女を装うという設定だったため受け入れられたが、もし主人公がセクシャル・マイノリティという設定だったらNGだったろう。本作が公開される4年前、ロビン・ウィリアムスが女装した映画『ミセス・ダウト』(1994年)が韓国でヒットしたことも無縁ではなさそうだ。

 当時、本作のポスターやOSTのCDジャケットに女装したアン・ジェウクの写真は使われていなかったが、後に日本で発売されたDVDジャケットには大きく使われていた。このあたりに韓日の文化的成熟度の違いを感じた。

 1990年代後半に東京の語学学校に通っていた筆者は、日本のテレビに女装タレントやセクシャル・マイノリティらしきタレントが当たり前のように登場するのを見て衝撃を受けた。当時の韓国は、女装したアン・ジェウクこそなんとか受け入れることができたが、セクシャル・マイノリティは日影の存在だった。

 韓国の人気タレント、スキンヘッドのホン・ソクチョンが2000年、自身がゲイであることをカミングアウトすると、しばらく仕事を干されるほど風当たりは強かったのだ。

 ここ数年、ホン・ソクチョンはキム・スンウ主演ドラマ『深夜食堂fromソウル』やイ・ヨンエ主演ドラマ『師任堂(サイムダン)、色の日記』、パク・ソジュン主演『梨泰院クラス』などに出演している。最近では、ネット放送局などでセクシャル・マイノリティをテーマとした啓蒙番組のMCも務めている。

 彼の芸能活動や啓蒙運動が韓国人のセクシャル・マイノリティに対する意識変化に寄与したことは確かだろう。最近のドラマ『エージェントなお仕事』のキム・テオ(広報担当チェ・ジニョク役)の演技を観て、ホン・ソクチョンを思い出した人は少なくなかったはずだ。