「東宮にいる世孫の話し相手といえば、学問の師匠か宦官だ、彼らとは学問で論じるばかりで、世孫は退屈していた。そこへ、宮の外のこともおもしろおかしく話すから、グギョンばかりを取り立てるようになった」「その姿はまるで男子が妖婦に惑わされたかのようだった」と嘆いている。

 そして、自分を恨むものがいれば、「あの者は東宮を誹謗しています」と罪をでっちあげていくから、ますます世孫がグギョンばかりを信じるようになった、など、ホン・グギョンがいかに狡猾かを書き連ねていく。

 最終的には、ホン・グギョンの4つの大罪(私怨をもって人を陥れた罪、イ・サンと王妃の仲を引き裂き自分の妹を入宮させ富を独占しようとした罪、王族を養子にして外戚として勢力を奮おうとした罪、王妃の女官を拷問して王妃を陥れようとした罪)を断罪し、1つでも極刑を免れないはずなのに、と憤っている。彼の愚行を王(イ・サン)に泣いて訴えていたら、次第に自分がホン・グギョンに騙されていると悟ってくれたとも記してあった。

 そもそも『閑中録』は、父王・英祖により死を命じられ悲しい最後をとげた夫君(思悼世子)の哀話(米櫃事件)を中心に、出生から入宮、その後の宮中で見聞したことを、党争にからんで没落した実家、豊山ホン氏の怨憤をはらすために書き記した全6巻に及ぶ回顧録だ。

 ホン・グギョンが登場するのは、純祖(スンジョ)の時代になってから実家の無実の無念を伝えるために書きためた後半部分。正祖(チョンジョ/イ・サン)の政敵として、ホン一族を排除した張本人がホン・グギョンなのだから、その恨みも深かったのだろう。

 ちなみにホン・グギョン、ドラマなどでは背の高い人が演じることが多いが(『赤い袖先』ドンノ役のカン・フンも身長184センチ)、実は小柄だったんだとか。

 国政運営の内容を国王の日誌形式でまとめた『日省録』の正祖即位の年の記述に、「あの承宣(承政院の承旨)の体躯は小さいが、国の仕事を処理する能力は大きい」と残されている。

*参考文献:『朝鮮宮廷女流小説集 恨(ハン)のものがたり』(総和社刊)

『赤い袖先』(C)2021MBC

●作品情報

『赤い袖先』

[2021年/全17話]※TV放送は日本編集版の全27話

演出:チョン・ジイン、ソン・ヨナ 脚本:チョン・ヘリ

出演:ジュノ(2PM)、イ・セヨン、カン・フン、イ・ドクファ

DVD&Blu-ray販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン