そういう疑念が徐々に強くなり、洪国栄の心は乱れる一方であった。その末に、彼は妹の死を孝懿王后の存在と結びつけるようになった。つまり、「王妃のイジメによって妹が精神を病んで死に至ったのではないか」という思い込みが生じたのだ。

 普通に考えれば、孝懿王后が側室の死の原因になるわけがなかった。なにしろ、彼女は謙虚で温厚な性格で知られていた。朝鮮王朝の数多い王妃の中でもっとも人徳があったと評されるほどだ。

 しかし、洪国栄はすでに常軌を逸していた。孝懿王后のことを「妹の死の元凶」と勝手に決めつけて、仇を討つ計画まで練るようになった。

 その結果、洪国栄は孝懿王后の食事に毒を盛ろうとした。それが発覚して彼はイ・サンの信頼を完全に失った。それどころか、王妃殺害計画の首謀者として極刑に処される運命となっていた。

 とはいえ、イ・サンは洪国栄を極刑に処さなかった。彼を地方に追放するだけにとどめたのである。それは1779年のことだが、さしもの名君も自分の即位に貢献してくれた側近を残酷な形で絶命させることができなかった。

 それでも洪国栄の命運は尽きていた。彼は絶対的な権力者が凋落する惨めさを世に知らしめた後、配流からわずか1年半後に息を引き取った。

●作品情報

『赤い袖先』

[2021年/全17話]※日本編集版のTV放送は全27話、DVDレンタル及び配信は全36話

演出:チョン・ジイン、ソン・ヨナ 脚本:チョン・ヘリ

出演:ジュノ(2PM)、イ・セヨン、カン・フン、イ・ドクファ

DVD&Blu-ray販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン