ジュノ(2PM)とイ・セヨンが主演した『赤い袖先』は、国王と宮女の究極的な愛を抒情的に描いていたが、周辺人物の中で印象的だったのが、カン・フンが演じたホン・ドンノであった。ドラマの設定では大変なイケメンで頭脳明晰な官僚という位置づけだった。
しかし、それはドラマ前半の描き方であり、終盤になると狡猾な権力者になってイ・サンを窮地に追いやる厄介者に成り果てていた。果たして、史実ではどんな人物だったのだろうか。
■『赤い袖先』でカン・フンが演じた側近ドンノ、実際はどんな人物だったのか
『赤い袖先』のホン・ドンノは本名を洪国栄(ホン・グギョン)と言う。ホン・ドンノ(洪徳老)というのは、洪国栄の字(あざな/成功した成人男子の別名)であり、それを『赤い袖先』では役名にしていたのである。
イ・サンが1776年に即位した後、洪国栄は一番の側近として圧倒的な権力を掌握するようになった。すべての上奏は彼を通じてイ・サンの耳に入るようになった結果、年長の高官たちでさえ彼を恐れるようになった。このような強大な地位に登り詰めた洪国栄は、さらなる野望を抱くようになった。
彼が利用しようとしたのは「イ・サンの正室だった孝懿(ヒョウィ)王后が子供を産んでいない」という事実だった。彼女はもともと病弱で、子供を産む見込みが薄かった。その現実に着目して、洪国栄は自分の妹をイ・サンの側室に送り込む策を講じた。こうして1778年に宮中に入ってきたのが元嬪(ウォンビン)であった。
彼女はまだ12歳にすぎなかった。当時の庶民であれば結婚さえ許されない年齢だ。それなのに、洪国栄は妹に「殿下の子を産むように」と厳命していた。しかし、運命はそう簡単には変えられなかった。残念ながら、元嬪は側室になってから1年足らずで亡くなってしまった。この突然の死に、洪国栄は自らの責任を強く感じ、深い悲しみに暮れた。
そんな悲しみの中で、彼の心にふと疑念が芽生えた。妹の急死に何か不穏な影を感じたのである。
「もしかして、中殿(チュンジョン/王妃)の策略によるものではないか?」