悪政に苦しむ地方の官庁に、水戸黄門が如く、馬牌(マペ)をかざした暗行御史(アメンオサ)と白装束の一団が「御史出頭!」の掛け声とともに一斉になだれこむ。

 民の味方、正義の使者、暗行御史が登場するこの光景はいつみてもすっきりするものだ。

御史とジョイ』ではテギョン2PM)が、『暗行御史(アメンオサ)〜朝鮮秘密捜査団』では、キム・ミョンスエル/INFINITE)が、そんな庶民のヒーローを演じている。

 彼ら「御史」を日本の時代劇などで例えるなら、将軍の御庭番(隠密)などが近い存在かもしれない。

■『御史〈オサ〉とジョイ』で2PMテギョンが演じた「暗行御史」とは?王直属の隠密捜査官

 暗行御史とは、朝鮮王朝時代、地方官吏の監察、いわゆる不正腐敗の摘発や民情の把握を任務とする、王直属の臨時官職だ。

 そもそも、地方に派遣されて民の生活を調べ、官吏を視察し、各種の犯罪事件を調査する司憲府(サホンブ)の監察官は太祖(テジョ)の時代からいた。だが、移動にも連絡にも苦労するこの時代、地方官吏の悪政を取り締るのは容易ではなかった。そこで国王は、平民の格好で密かに捜査する隠密捜査官を派遣するようになった。

 11代・中宗(チュンジョン)の治世を記録する『中宗実録』に「1509年4月、隠密特使と各道に送る」と記されたのが最初だといわれている。その後、13代・明宗(ミョンジョン)の頃に制度が活発化、「暗行御史」という名で記録されるようになる。『オクニョ 運命の女(ひと)』では、明宗自らが隠密捜査官のふりをするシーンもあった。

 一般的に暗行御史は「封書(ポンソ:暗行御史の任を知らせる文書)」を受け取ると即、都から出発させられる。親や同僚に挨拶することは許されない。そして、表書きに「南(東)大門の外に出てから開封せよ」と記された「事目(サモク:任務と任地が記された文書)」を門の外で開いてようやく、自分がどこへ向かうべきかを知る。そして、1〜2人の従者を連れ、出発するのである。

 そんな彼らに与えられるのは「馬牌」と「鍮尺(ユチョク)」。馬の姿が彫られたこの牌は、馬の数が多いほど位が高く、駅站(ヨクチャム)で馬や人足を調達することができる身分証明証だ。暗行御史であれば、だいたい3頭までの馬が描かれている(ちなみに王室だと馬の数が10頭になるそうだ)。

 また、真鍮で作られた文鎮のようなものさしの鍮尺は、主に地方官庁が税の徴収に不正を行っていないかを調べる(徴収用の計量器の大きさを不正する官庁も多かったそう)のに使われた。どちらも暗行御史のみが扱うものではないのだが、いつのまにか彼らを象徴するアイテムとして知られるようになった。