1月中旬は地方での酒場ツアー催行で4日も家を空けていたが、一度ソウルの自宅に戻ると、寒さから外出がおっくうになり、ずっと配信で映画を観ていた。

 なかでも気に入ったのは2作。ひとつは、『ホームレス』(2022年/イム・スンヒョン監督)、もうひとつは『夏時間』(2019年/ユン・ダンビ監督)だ。

■映画『夏時間』見どころは?是枝裕和監督作品『歩いても 歩いても』にも通じる映像表現

 いずれも30代女性監督の作品だ。2作に共通するテーマは「老い」と「死」なのだが、血生臭いシーンがまったくないどころか、昔の小津安二郎作品や是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』のような余白のある表現が心地よく、豊かな時間を過ごすことができた。

 とくに、後者の『夏時間』はキャスティングにハッとしたこともあり、印象に残った。釜山国際映画祭で4冠を獲得するなど、高い評価を受けたというのも納得だ。

 離婚して無職の父に連れられ、10代の少女(チェ・ジョンウン)とその弟(パク・スンジュン/『愛の不時着』)が、おじいちゃんのいる実家でひと夏を過ごす。そこに離婚寸前の叔母が加わり、和やかに過ごすが、父がおじいちゃんを老人ホームに入れて勝手に家を売ろうとしたり、子どもから大人になろうとする少女が父や弟にストレスを感じたり、ちょっとしたいさかいがある。

 主人公である少女の叔母が登場したとき、「おや?」と思った。頭のてっぺんから出ているような少し高い声。ややはれぼったい顔立ち……。少し考えて得心した。彼女はホン・サンス監督の名作『カンウォンドのチカラ』(1998年)で主人公ジスク(オ・ユノン)といっしょに江原道束草や雪岳山を旅した親友ウンギョンを演じた女優パク・ヒョニョンだった。私が気に入った映画を何度も観るせいもあるが、それだけではない。脇役なのに独特の存在感があったから気づいたのだ。

当時20代前半のパク・ヒョニョン(1975年生まれ)。ホン・サンス監督作品『カンウォンドのチカラ』(1998年)の一場面より (C)MIRACIN ENTERTAINMENT CO.LTD
左がヒロインのオ・ユノン、右がパク・ヒョニョン。『カンウォンドのチカラ』の一場面より (C)MIRACIN ENTERTAINMENT CO.LTD

 彼女のプロフィールを検索して驚いた。『カンウォンドのチカラ』でヒロインを演じたオ・ユノンこそ、チョ・スンウ主演『離婚弁護士 シン・ソンハン』で夫の不倫相手と争う妻役や、ハ・ジョンウ主演映画『哀しき獣』(2010年)の敵役(チョ・ソンハ)の妻役などで活躍しているが、その他の俳優はとっくに銀幕から遠ざかっていると思い込んでいたからだ。