ムーダン(霊媒師)に頼るな」

 これはソン・ソックチェ・ウシク主演のサスペンス話題作、Netflix殺人者のパラドックス』2話の捜査会議のシーンで、上長の刑事が部下に言ったセリフだ。

「苦しいときの神頼み」とでもいうのか、犯罪映画やドラマでたまに聞くセリフなので、実際に霊媒師に犯人を聞きに行く刑事がいるのかもしれない。

 刑事に限らず、日本の卑弥呼、ドイツのヒトラー、アメリカのレーガン大統領、我が国のパク・クネ大統領など、占いに頼った権力者の話はよく聞く。

ポン・ジュノ監督の名作映画『殺人の追憶』で刑事の相談を受けたムーダン

 ここで思い出したのが、ソン・ガンホが映画『殺人の追憶』で演じた田舎刑事だ。彼は『殺人者のパラドックス』でソン・ソックが演じた刑事同様、勘が鋭いタイプだが、ソウルから来た冷静な刑事(キム・サンギョン)とのキャラクター対比で、とんちんかんな捜査をする場面も多く、笑わせられた。

 捜査に行き詰まった田舎刑事は恋人(故チョン・ミソン)の「よく当たるムーダンに相談してみたら?」という助言を真に受け、霊媒師(ユン・ガヒョン)を訪ねる。

 容疑者の写真を見せ、「この中に犯人はいるか?」と聞くが、霊媒師は「そんな汚い顔を見せるな」とつれない態度。挙げ句、風水グッズのようなものを売り付けようとする。

 田舎刑事はそれを拒否したのかと思いきや、深夜、野原でそのグッズを広げ犯人を待ち構える。

 なんと、そこに容疑者が現れる。田舎刑事はそいつを捕まえようと突進。そこに居合わせた冷静で科学的な捜査が信条のはずの都会刑事とともに容疑者を追いかけるというオチである。

全羅北道の金堤市で見かけたムーダンの家。高く掲げられた旗が目印