そんなソウルの日々をこれまでもすごしてきた。夜、宿で地下鉄路線図を眺めることは日課のようになっている。翌日、地下鉄に乗ることはなくても、気がつくと路線図を眺めていることはよくある。

 気になる路線があった。地下鉄は番号が振られているが、それとは別に路線名がついたものがいくつかある。KONESTの路線図では、「仁川空港磁気浮上鉄道」「議政府軽電鉄」「牛耳新設線」と日本語で書かれた路線だ。「仁川空港磁気浮上鉄道」は運行をやめてしまったが、あとの2路線は運行している。

 東大門にいた。早く用事がすみ、時間ができた。

 乗ってみようか……。

 誠信女子大入口駅まで行けば、牛耳新設線に乗り換えることができる。この路線は「U」というアルファベットが振られていた。

 誠信女子大入口駅で降り、案内を頼りに進んだ。改札があり、そこに交通カードをかざして進む。やってきたのは2両連結の短い電車だった。

牛耳新設線の入り口。ローカル地下鉄の雰囲気?

 この路線は2017年に運行をはじめていた。新設洞駅と北漢山牛耳駅を結ぶ11.4キロを走っていた。

 乗ったのは先頭車両だった。見ると先頭、日本の電車だったら運転席が見渡す場所に、3人の乗客が立っていた。その間から、ライトに照らされた線路が光っていた。近づいてみた。無人……いや、運転席がない。自動運転システムの電車だったのだ。3人の乗客は全員が中年男性だった。

 僕はその背後に立った。

 やがてドアが閉まり、発車。その瞬間、急発進の反動で、おっととと……と後ろに2歩。自動運転だからなんといっていいかわからないが、運転が荒いのだ。

 電車は次の貞陵駅に近づいたのか、急ブレーキがかかった。僕はそのとき、ドア付近に立っていたが、隣にいた女性が急停車によろけ、思いっきり足を踏まれてしまった。かなり痛かった。

 自動運転はどこかゆっくりと安全運転で運行されているイメージがあったが、牛耳新設線は違う。荒いのだ。

 この沿線に降りてみたい駅があった。その駅名が、夜、宿で路線図を眺めながら気になっていた。

 4.19民主墓地駅──。そこに向けて、電車はゆっさゆっさと車体を揺らしながら進んでいった。(つづく)