圧倒されるようなソウルの地下鉄路線図。気になる路線がいくつかあった。そのなかの牛耳新設線に乗ってみることにした。

 この路線は2017年に運行をはじめていた。運行距離は11.4キロ。新設洞駅と北漢山牛耳駅を結んでいた。2両連結の短い編成だった。乗ってみてわかったが、この路線は自動運転システムだった。運転手がいないというか、運転席がない。なぜか、運転はかなり荒かったが。

 この路線に乗ってみたいと思った理由はもうひとつあった。「4.19民主墓地」という名前の駅が気になったのだ。

■ソウルの宿で地下鉄路線図を眺めていて、気になった駅名

 夜、ソウルの安めの宿で、地下鉄の路線図を眺めることは日課のようになっていた。翌日に乗る路線を確認することが目的なのだが、それが毎日つづくうちの癖になってしまった。翌日、地下鉄に乗ることがなくても、ベッドに横になると、地下鉄路線図を広げてしまう。

 そんななかで、この4.19民主墓地という駅名が目に止まった。

「墓地という名前を駅名につけるだろうか」

 路線図を眺めながら首を傾げた。いまはそれほどでもないようだが、日本の地下鉄には墓地広告を出すことに規制がある、という話を聞いたことがある。ところがこの駅は名前そのものが墓地なのである。

 住んでいる人にも迷惑な話ではないか。最寄り駅は? と聞かれて「墓地」と答えなくてはならない。

 しかし、その前に「4.19民主」がついている。

 4.19──。あの時代だった。だから住人は墓地という駅名を受け入れる?

 気になる駅名だった。

 4.19民主墓地は、牛耳新設線の終点のふたつ前だった。エスカレーターで地上にあがった。そこで目にした風景は、ソウルの下町のそれだった。高いビルがない。背後に木々が少ない山が見える。墓地をつくるには適した立地なのかもしれなかった。

 見渡すと、交差点のところに表示があった。スマホの翻訳機能で読みとってみると、「国立4.19民主墓地」。その方向に進んでみることにした。

 道はなだらかな坂道になっていた。歩きはじめて、ほかのソウルの道とは様子が違うことに気づく。国旗だった。道に沿って韓国の国旗が並んでいる。ここはそういう場所だった。

墓地への道に沿って韓国の国旗が並ぶ。墓地への参道の雰囲気