■壊れたものを上手に直す、ペク・ヒョヌの諦めない心

 もうひとつ、彼の魅力に「壊れたものを上手に直す」という特技があった。これは、ホン・ヘインが自身の手帳にメモしていたペク・ヒョヌについての一文だ。

 実際、ペク・ヒョヌは壊れたコピー機を直すばかりでなく、離婚の危機に陥った夫婦関係も粘り強く向き合っていく。もちろん、心がすれ違ってしまったなら、相手を手放すという選択もあっただろう。しかし、自分にとってヘインは大切な人だと気づいたとき、ヒョヌは諦めず、壊れた2人の関係を直そうと努力した。そのひたむきな努力の過程は、ヘインだけでなく、周囲の人々、そして視聴者の心を激しく揺さぶることに。

 従来のロマンス作品が、「新しい出会いによって、愛を育んでいく」ものだとしたら、本作は、「育まれた愛が壊れ、それを再生していく」物語だった。そして、この「壊れたものを直す」努力と能力ほど、人間関係にとって大切なものはないということを気づかせてくれるドラマでもあった。

 確かに、ヘインが拉致されたり、事故に巻き込まれたり、ありえない〜!という試練が続いたが、ヒョヌの真心だけはいつもリアルなのだ。それを繊細に、本物のように演じたキム・スヒョンの表現の豊かさ、深さにくぎ付けにならないわけがない。

 もうひとつ、ペク・ヒョヌに心掴まれた場面があった。それは、ヘインが事故に巻き込まれたと思い、ヒョヌが動転するシーンだ。

 どんなときも冷静に完璧にヘインを守り抜くヒョヌだが、このときばかりは心が壊れたように泣き崩れる。もしヘインを失ったなら、彼は生きていられないほど壊れてしまうのである。彼とて彼女を必要としているという点が、痛いほど感じられ、思い出しても泣けるほどだ。

 おそらく世の夫たちも、そうではないか。そうあってほしい。そんな姿が、ヒョヌを通して描かれていたように思う。

 余談になるが、壊れた愛を直すために奮闘する夫の物語としては、イ・ドヒョン×キム・ハヌル主演の『18アゲイン』も勧めたい。こちらの夫は、うだつのあがらぬ夫だったけれど。

●配信情報

Netflixシリーズ『涙の女王』独占配信中

[2024/全16話]演出:チャン・ヨンウ『ロマンスが必要』『不可殺』、キム・ヒウォンシスターズ』『ヴィンチェンツォ』 脚本:パク・ジウン『愛の不時着』『星から来たあなた』『プロデューサー

出演:キム・スヒョン、キム・ジウォン、パク・ソンフンクァク・ドンヨン