北朝鮮料理は、韓国料理に比べると唐辛子の量がかなり少ない。それでいて、韓国と同じような料理があるから、韓国料理に慣れた舌にはかなり物足りない印象を受ける。僕もそうだった。なんとなくつまらない味に映るのだ。
しかしそれを凌駕するのが北朝鮮の女性たちだった。話では選抜された女性たちということだった。皆、垢抜けていた。ビールを注いでくれる指は、労働をまったく知らない細さだった。身のこなしも優雅で、笑顔もかわいかった。胸には金日成バッチをつけていたが。
その後、僕は何回か、彼女たちの夢をみた。それほどの美人をそろえていた。
昼間、店の前を通ることもあった。店の前で洗濯をしている姿はあったが、彼女たちは街に出ることを禁じられているといわれた。店はかなり厳しい上納金を課せられているのは当然のことで、そんな思いで眺めると鼻白むものはあった。
この北朝鮮レストランが激減している。国連の安保理事会決議での北朝鮮への経済制裁が効力を発揮するなかでコロナ禍になった。多くの店が、コロナ禍が明けてもドアは閉じられたままだという。客も北朝鮮の女性がステージで演奏するスタイルに古さを感じはじめていたともいう。松濤園は店を開いているという話だが。
しかしそんな北朝鮮レストランの境遇とはまったく違う世界があった。ソウルの北朝鮮レストランである。いや、食堂といったほうがいいだろうか。
昼どき、知人と乙支線路1街に近い飲食店街を歩いていた。昼食をどうしようか……といったとき、彼がこういった。
「北朝鮮料理にしませんか。好きってわけじゃないけど、月に1回ぐらい、ものすごく食べたくなる。中毒にかかっているのかも」
といって笑った。
中毒? ソウルの北朝鮮料理店にむかった。