■怒り、恥、愛嬌を同時に見せる表情演技

『アジアの天使』では、冒頭、チェ・ヒソ扮する歌手ソルがビル内市場で唄うシーンがあった。

 ひと昔前の軽快な歌なのだが、むごいことに歌い初め数秒で館内放送に伴奏が遮られ、マイクが歌声を拾わなくなってしまう。ソルの顔は一瞬で曇るが、それでも歌い続ける。心には怒りや恥ずかしさが沸き起こるが、客前なので露骨に不機嫌な顔は見せられない。このときのチェ・ヒソの表情演技も秀逸だった。なんらかの表現活動をする人にとっては身につまされる場面である。

 高身長というわけでもないし、突き抜けた美貌の持ち主というわけでもないチェ・ヒソだが、その表現力は注目に値する。いま、オム・ジウォン(『シスターズ』)が演じているような凄みのある役は、そのうち彼女の独壇場となるだろう。