ディザスター(災害)やゾンビを題材とした映像作品は、最近はトラブルそのものの描写よりも、それに立ち向かう人間模様にフォーカスした作品が目立っている。それはこの20余年間、私たちがテロや地震、感染症などの現実のトラブルと直面するようになったからだろう。絵空事のトラブルでは現実に追いつかなくなっているのだ。
たとえば、世界的にヒットした米国ドラマ『ウォーキング・デッド』は、ゾンビ禍でリセットされた世界で生き残った人々がどんなコミュニティを作るか、どんな街を作るか、どんな国を作るかが物語の核になっていた。
最近の韓国ドラマでは、アン・ウンジンとユ・アイン出演のNetflix『終末のフール』がそれだ。安全な海外へ逃げようとする特権階級の人々との対比で、自分たちの生活圏で健気に生きようとする庶民の姿を描いていた。
そして、イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン出演の話題映画『コンクリート・ユートピア』もその例だ。
■映画『コンクリート・ユートピア』の見どころは?変貌していくイ・ビョンホンの表情演技
『コンクリート・ユートピア』の舞台は、大災害によって壊滅寸前のソウルで一棟だけ残った高層アパート(マンション)。CGを使った非日常世界の描写は最小限で、アパート住民の代表に祭り上げられたヨンタク(イ・ビョンホン)が恐怖支配者になっていく過程をじっくり描いた作品だ。
そして、彼に追随する者たち、反発する者たちの群像劇でもある。ヨンタクの顔つきがどんどん変わっていく姿は役に入り込むイ・ビョンホンの真骨頂だろう。
ヨンタクが混乱に乗じてのし上がっていく姿は、日本でも8月に公開される映画『ソウルの春』でファン・ジョンミンが扮するチョン・ドゥグアン(事実上の全斗煥)に通じるものがある。また、住民たちの宴会で、ヨンタクが1990年代のヒット歌謡「アパート」を唄い踊るシーンでは、Netflixドラマ『私たちのブルース』でイ・ビョンホンが扮した行商人の演技を思い出した。
アパートの住人の一人、ミンソンに扮したパク・ソジュンは、ヨンタクの忠実なしもべという役柄から、ヨンタク(イ・ビョンホン)を引き立てることに徹していて、逆にプロ意識を感じさせた。
ミンソンの妻を演じたパク・ボヨンが終盤、アパートの住人たちを評したセリフ「平凡な人たちでした」は大変含蓄があり、映画を味わい深いものにしていた。最近の主演作、Netflix配信ドラマ『今日もあなたに太陽を~精神科ナースのダイアリー~』の精神科の看護師役でも、等身大の繊細ながら芯のある演技が高い評価を受けたパク・ボヨンだが、本作でも彼女の魅力が存分に発揮されている。
また、本作には、Netflix配信ドラマ『シスターズ』でキム・ゴウン演じる主人公の妹を演じたパク・ジフが成長した姿を見せてくれる。端整な顔立ちだが、どこか陰のある役柄は今後、彼女の持ち味となりそうだ。